まひるのほし


● まひるのほし
 パステルが大胆に指でこすられ、キャンバスからはみ出す勢いの植物にとりくむシュウちゃん(舛次崇)、同じアトリエでは絶えずか細い音を発しながらゆきえちゃん(竹村幸恵)がアブストラクトな水彩画に向かっている。一方、女の子と友達になりたい、その一念から路上で怒鳴るは、わめくは、暴力ざたは巻きおこすはの、困った障害者シゲちゃん(西尾繁)。その切なる感情を書き溜めた膨大なメモからパラノイアを超越したアート作品「シゲちゃんコレクション」が生まれる。著名な芸術家の家庭に生まれたヨシヒコさん(伊藤喜彦)は信楽で面妖な「人間独特の顔」を陶器に焼きつけているが、その振舞は謎に満ちている。本作は東西の福祉施設を舞台に制作する七人の知的障害者のアーティストの活動を通して観る者を爆笑と感動が織りなす至福の瞬間へ導く稀有なドキュメンタリーである。監督は『阿賀に生きる』でサンダンス・イン東京、山形国際ドキュメンタリー映画祭の受賞に輝いた佐藤真('57年生)。本作は7年ぶり、待望の新作だ。撮影監督は、長年障害者アートの現場に係ってきた田島征三。撮影は、日本映画の数々の傑作に参加した名カメラマン大津幸四郎。挿入歌は井上陽水を選曲し、この作品の一見、無作為でありながら、対象、作り手、観客のすべての人々をとりまく現実のままならなさと希望を艶やかに演出している。

監督 佐藤真
撮影監督 田島征三
撮影 大津幸四郎
録音 久保田幸雄
音楽 井上陽水
製作 山上徹二郎、庄幸司郎
1998年 93分