エグザイル・イン・サラエヴォ Exile in Sarajevo


● エグザイル・イン・サラエヴォ Exile in Sarajevo
 近年『パーフェクト・サークル』『ウェルカム・トゥ・サラエボ』などボスニア内戦を描いた劇映画が相次いで公開されたが、本作はオーストラリア在住の監督が、亡き母の故郷サラエヴォを訪れ、戦下に生きる人々の日常を記録した貴重なドキュメンタリーだ。
 監督のタヒア・カンビスは'56年ボスニアの難民キャンプ生まれ。5才で祖国を離れた彼が、亡命者(エグザイル)としての立場でキャメラとともにサラエヴォを訪れるところから映画は始まる。国連保護軍の駐留する内戦終結間際のサラエヴォでは、生と死が隣り合わせとなった日々が続いていた。キャメラはマス・メディアの報道からは窺い知れない、市民の活力に満ちた生活を捉えていく。しかしダンス・コンテストで華やかに舞っていた少女は数日後、銃弾に倒れ、7歳の美しい少女は集団レイプを目撃した忌まわしい記憶を語る。それが個人を無視し蹂躙する戦争の姿なのだ。本作は、歴史的に見ても重要な資料となるだろうが、歴史のすき間に消えていく個人の声、個人の生命の存在をも確かに映しだしている。心をうつ91分。

監督 タヒア・カンビス、アルマ・シャバーズ
撮影 ロマン・バスカ、タヒア・カンビス、アルマ・シャバーズ
録音 アルマ・シャバーズ
1997年 91分