りんご Sib


● りんご Sib
 1997年の夏、テヘラン。生まれてから一度も外へ出たことのない12才の双子の姉妹マスメとザーラのもとに福祉事務所とテレビの取材がやってきた。“女の子は花。太陽にあたると枯れる”と昔の教えをかたくなに信じる父と盲目の母によって双子が監禁されていることを心配した近所の人々が署名運動を起こしたのだ。両親から隔離された二人の娘を取り戻すため、今度は父親がソーシャルワーカーのモハマディ夫人に嘆願する。二度と娘を監禁しないと誓った父は双子をつれて帰宅し、モハマディ夫人の目にかなうように娘たちに料理、洗濯、掃除をすることを教え込む。そして父はまた家に鍵をかけてしまった。娘は門の中からアイスクリーム売りの少年の声を聞きながらなすすべを持たない……。
 アッバス・キアロスタミの『クローズ・アップ』に出演し、自身もまたイラン映画の監督として『行商人』『サイクリスト』『サラーム・シネマ』などで世界的評価を受けているモフセン・マフマルバフを父に持つサミラ・マフマルバフ('80年生)の『りんご』はデビュー作ながらいきなりカンヌ国際映画祭の正式出品を乞われセンセーショナルな注目を浴びた。テレビ・ニュースの実話から当事者となったナデリー一家を取材し、実際に起こった出来事を家族自身が演じるというドキュメンタルな技法を選びながらも、ナイーブで明るい監督の視線が、旧弊なイメージを打ち破り家族がたどりつく先にあるものの象徴としての『りんご』を綴ってゆく。古い伝統と新しい自由、そのどちらにも注がれるまなざしの優しさが、新しい世代の出現を予感させる。スタッフには脚本・編集の父モフセンとともに当時撮影中の『沈黙』のカメラマンたちが参加している。

監督 サミラ・マフマルバフ
撮影 エブラヒム・ガフリ、モハマド・アーマディ
スチル メイサム・マフマルバフ
脚本・編集 モフセン・マフマルバフ
音楽 イラン伝承音楽
出演 ナデリー家の本人たち