ファザーレス 父なき時代
東京で一人暮しの村石雅也(22歳)は、昼間、籍を置く映画専門学校にもあまり顔を出さず、部屋に閉じこもり、夜は盛り場を出歩き、行きずりの中年男との性行為で、慰められている。彼女とは、喧嘩の末、別れた。自己嫌悪、人間不信、将来への不安、セクシュアリティのうつろい。彼はいつもそこから逃れられないままでいる。いつからか始めた剃刀による自傷行為。血と痛みは一時、彼を心の傷から開放する。ある日、彼は撮影クルーを連れて信濃へ帰郷する。両親の離婚と再婚、いじめ、登校拒否、家出、の苦い少年時代への憎悪から、母へ、義父へ、父へ、厳しい追求の言葉を浴びせてゆく。 本作品は、日本映画学校ドキュメンタリーゼミによる卒業製作として、茂野良弥(監督)と村石雅也(撮影、主演)によって企画され、ニューヨーク大学国際学生映画祭をきっかけに海外映画祭より続々と招待、受賞を得た。ありのままの姿をさらけ出し、自分だけでなく一族のプライバシーを解体する容赦無い撮影は痛々しい。だが、カメラを通すことで遅ればせながら実時間を生きることができた家族の真摯な応答によって、大都会で静かに壊れてゆく村石が、めきめきと蘇生し成長する感動的な結末は、希有なドキュメンタリーの出現を高らかに告げている。 監督 茂野良弥 【カラー】 |