豚の報い


● 豚の報い
 沖縄本島に住む大学生の正吉(小澤征悦 指揮者小澤征爾の長男)は、両親を亡くし故郷を離れて天涯孤独の身の上だ。ある晩、行きつけのスナックで呑んでいると、運送中の事故で逃げ出した一頭の豚が店の中に飛び込んでくる。やっとのことで店から追い出す正吉だが、気がつくと、店で働くネーネー(お姉さん)のひとりのマブイ(魂)が落ちてしまっていた。沖縄では、豚はもっとも身近でかつ神聖な動物なのだ。豚によって運ばれた厄を落とし、落ちてしまったマブイをこめるには、ウタキ(御嶽)と呼ばれる神聖な霊場に行って神に祈るしかない。それぞれ胸に秘めるものがある店のネーネーたちを連れて、正吉は故郷の島、真謝島に向う。真謝島は昔から神の島とも呼ばれる、神聖な島なのだった。ネーネーたちを口実に島に戻った正吉だが、心に秘めていたことがあった。それは、12年前に死んだ父親の弔いをすることだった。海で死んだものはすぐには墓には入れられないという真謝島のしきたりに従い、風葬された父親の骨を拾わなければいけないのだ。観光客を装って島に着いた一行だが、正吉の心中を知ってか知らずか、まさに豚のように飲み食いし大騒ぎするネーネーたち。その激しすぎる宴会は、嵐のような数日間をむかえるための祝祭にも似た予兆なのかもしれない。沖縄在住の作家、又吉栄喜の、豊かな民俗性と独特の風土の特色がふんだんに盛り込まれた芥川賞受賞の同タイトルの原作を、『友よ、静かに暝れ』や『Aサインデイズ』でも沖縄を舞台にしていた崔洋一監督が、全編沖縄ロケで映画化。

監督 崔洋一
出演 小澤征悦、早坂好恵、あめくみちこ、上田真弓、岸辺一徳 他
脚本 崔洋一、鄭義信
撮影 佐々木原保志
録音 細井正次
音楽 大熊亘
美術 磯見俊裕
照明 金沢正夫
99年 118分