『チェリビダッケの庭』


● チェリビダッケの庭 Sergiu Chelibidache’s Garden
 オールド・クラシック・ ファンにとってセルジュ・チェリビダッケの名は特別な響きを持つだろう。荘厳なフ ルトヴェングラーと華麗なカラヤンの狭間で戦後間もない時期のベルリン・フィルの 魂を鼓舞した指揮者として、あるいは晩年にミュンヘンを永住の地と定め、ミュンヘ ン・フィルそのものを「理想の楽器」へと育て上げ、楽団員からも聴衆からも格別の 敬意を払われた特別な存在だからかもしれない。しかし、コンサートでの聴衆との魂 のやりとりを至福の瞬間として演奏活動を続けた巨匠は、レコードへの録音をあから さまに毛嫌いし、それを音楽として認めることさえしなかったという。従って当然そ の演奏を聞くことは至難の技だった。だからこそチェリビダッケの名は特別だったの だろう。近年,収録されていた音源がCD化され、その神業とも呼べる力強い演奏をよ うやく聞くことが出来るようになった稀代のマエストロが笑い、語り、平凡な家庭人 として飾り気のないあたりまえの姿をしていたことを、そしてまた、どれほど厳格に 音楽に向かい合っていたのかを,息子のイオアンが構成したドキュメンタリー・フィ ルムが伝えてくれる。もちろん、ファン垂涎の演奏シーンもふんだんに盛り込まれ た、至上の147分。

監督 セルジュ・イオアン・チェリビダーキ
出演 セルジュ・チェリビダッケ 他
撮影 ブライアン・フック
録音 エルベ・ポワソニール
編集 S.I.C
96年 147分