撮影監督 宮川一夫と巨匠たちの世界


 宮川一夫 昨年惜しまれながら他界した、日本を代表する名撮影監督。溝口健二、 黒澤明作品を筆頭に、数々の名作の撮影・照明を担当。若き日の現像所勤務で得た フィルムについての化学的知識に加え、類まれな映像センスと流麗かつ大胆なキャメ ラワークで戦後映画界に一時代を築いた。
● すっ飛び駕
 河内山宗俊が大活躍する「天保六歌仙」を下敷きに、伊藤大輔脚色、 大河内伝次郎主演、マキノ雅弘監督という豪華な顔合わせで描かれる、痛快なテンポ の娯楽時代劇。98分。
● おとうと
 幸田露伴一家をモデルにした幸田文の同名原作をもとにした文芸大作。 凝り性の市川崑監督と宮川一夫がイメージする大正時代風の雰囲気を出すために、 「銀残し」と呼ばれる水墨画調の処理を施した、特別なプリントでの上映。98分。
● 雨月物語
 溝口健二監督の畢竟の傑作。上田秋成の原作から「浅茅が宿」「蛇性の 婬」に想をとり幻想的に描く。特にクライマックスのキャメラワークは圧巻。晩年の 宮川一夫が最後にチェックしてプリントさせた貴重なフィルムでの上映。97分。
● 浮草
 小津安二郎が自作をリメイクした唯一の大映作品。芝居一座のなじみの旅先 での様子が鮮やかな色彩で描かれる。冒頭の灯台から素晴らしいショットの連続だ が、中でも軒先で雨宿りする中村雁治郎と京マチ子のやりとりは小津タッチと宮川マ ジックの幸福な出会いとも呼ぶべき秀逸なシーン。119分。
● 夜の河
 山本富士子をスターダムに押し上げた吉村公三郎初カラー作品。京都の古 い京染め屋の暖簾を守るひとり娘が、古い伝統に従って生きながらも、子持ちの大学 教授(上原謙)に強く惹かれていく2面性が描かれる。104分。