成瀬巳喜男の世界Vol.2


● 妻よ薔薇のやうに
 歌人の悦子は、砂金探しに出たまま家を捨てた夫が忘れられな い。見かねた娘の君子が父を迎えにいくと、そこには愛人のお雪と幸福そうに暮らす 父がいた…。親愛と束縛を同時に生み出す家族という形態。そこから離脱する個人。 後の作品にも通底する主題を軽妙さをまじえて描いた戦前の代表作。君子役の千葉早 智子は本作の2年後、成瀬夫人となった。74分。
● 鶴ハ鶴次郎
 川口松太郎の直木賞受賞作の映画化。山田五十鈴、長谷川一夫という 二大スターを主演に、の名コンビが芸と愛との狭間で揺れ動く姿を描く。芸に関して 対立し続けていた二人が愛を自覚していく前半から、行き違いからお互いを見失って いく後半へ、緊密な構成と情感豊かな演出で見せきる揺るぎない傑作。89分。
● めし
 結婚5年めの夫婦がささいな出来事から次第に亀裂を深めていく様子を、細 やかな描写で綴った名作。戦後しばらく低迷期にあった成瀬が林芙美子の原作と出会 い、『稲妻』『晩菊』『浮雲』と続く絶頂期をスタートさせた記念碑的作品でもあ る。主演=原節子、上原謙。音楽=早坂文雄。97分。
● 山の音
 とある中流家庭を舞台に、老境に入った男が、同居する若く美しい息子の 嫁に抱く複雑な愛情を描いた、川端康成の同名小説の映画化。山村聡、原節子、上原 謙がそれぞれの持ち味を生かした好演を見せ、成瀬の客観的描写も冴える。95分。
● ひき逃げ
 交通事故で子供を殺された女が、犯人を追求するサスペンス。成瀬作品 に繰り返し現われる突発事故というモチーフを中核にすえ、被害者、加害者それぞれ の癒されぬ思いを織り込んだ、晩年の異色作。主演=高峰秀子、司葉子。94分。
【モノクロ】