『大いなる幻影』LATE ROAD SHOW


●大いなる幻影 Barren Illusion
 黒沢清監督初の恋愛映画にして、99年のヴェ ネツィア映画祭に出品され、物議をかもした話題作がやってきました。近未来の東京 を舞台に、自分の存在そのものが消えて行きそうな不安と抗いながら、静かに日々を 送る若いふたりの平凡で退屈な時間と、その隙間に入り込む非日常的に見えながらも リアリティ溢れる様々な事件が、実験的な手法で描かれていきます。すべてをもてあ ましているハル(武田真治)とここでないどこかを夢想するミチ(唯野未歩子)は、 社会性も主体性もなさそうな浮遊感を漂わせてはいますが、空を覆うほどの花粉が飛 散し、思いがけない形で「死」そのものと向き合わされてしまったりもする2005年の 東京という街もそこで暮らす人々も「世界」と関わっていることに変わりはなく、決 して孤立しているのではないこともまた、この映画は見せてくれます。『どこまでも いこう』と同様、映画美学校の学生を助手として編成された若いスタッフと、若い主 演ふたりに、ベテランスタッフがきっちりと形を与えています。中でも精緻な音作り を仕上げた菊池信之の録音は驚嘆に値する見事な出来栄えです。

監督・脚本 黒沢清
出演 武田真治、唯野未歩子
撮影・照明 柴主高秀
録音 菊池信之
編集 大永昌弘
美術 松本知恵
99年 95分