〈1150〉増村保造レトロスペクティブ
○人間の持つ本質的な欲望、愛憎を的確に表現し、その質感溢れる映像で観客を圧倒し続けた増村保造監督。その傑作群を一挙18本上映する。内10作品が若尾文子出演作。
増村保造は1924年生まれ。東大卒業後'52年ローマの映画センターに留学。帰国後、大映に入り溝口健二や市川崑の助監督を務める。'57年、漸進なタッチで話題となった『くちづけ』で監督デビュー。続く『青空娘』(89分)で若尾文子と初めて組み、少女と女性の間のまだあどけなさが残る彼女を、継母にいじめられながらも挫けず生きる女として描き大女優の道へと誘う。翌年開高健の『巨人と玩具』(96分)を映画化。力強い人物描写、アップテンポな演出で旧来の日本映画と一線を画し、増村の名がトップランクに位置づけられることとなる。'59年にはモダン&スピーディなラブコメディ『最高殊勲夫人』(95分)と、若尾を始め杉村春子、山本富士子、勝新太郎出演のオールスター映画『美貌に罪あり』(87分)を撮り職人的腕前も披露。
そして'60年の『からっ風野郎』(76分)では作家三島由紀夫を主役に抜擢。愛と暴力を三島の肉体で演出。翌年井原西鶴の『好色一代男』(92分)を市川雷蔵主演で演出。若尾、中村玉緒、中村雁治郎と豪華キャストの時代劇で雷蔵の軽妙な演技が目を引いた。同年、増村は代表作のひとつ『妻は告白する』(91分)を完成させる。若尾は、日本的な束縛の中に生きる女が恋愛を契機に、なりふりかまわず情念に走る姿を一世一代の名演技で見せて増村の演出に応え、大女優の名を確実にする。'62年、自動車産業のスパイたちの壮絶な争いを描いた『黒の試走車』(95分)を監督。絶妙な語り口、テンポのいい演出とスリリングな内容で娯楽映画の傑作となった。そして'64年の『卍』(90分)では当時タブー視されていた女性同士の愛を瑞々しく描き話題をふりまいた。
'66年、女郎蜘蛛さながら近寄ってくる男を次々死に追いやる女を主人公にした『刺青』(86分)と、戦争を背景にした作品2本を撮る。『陸軍中野学校』(95分)と『赤い天使』(96分)である。『陸軍〜』はスパイ養成所での若者たちの行動を冷徹に見つめた秀作で雷蔵のニヒルな演技が絶品。『赤い〜』は野戦病院の看護婦(若尾)が、戦火の中でも軍医への愛をつらぬく物語。増村特有の映像美と若尾の美しさが重なりフランスで好評価を受けた。'68年の『セックス・チェック 第二の性』(89分)は陸上競技のコーチ(緒形拳)と選手(安田道代)の壮絶なバトルが見もの。安田は選手としてはトップレベルだがセックスチェックの結果半陰陽と判明、「女性」でないことがわかる。緒形は安田を女にしようと…。
翌年、船越英二が女体のオブジェと激しく戯れるシーンで話題となった江戸川乱歩原作の『盲獣』(84分)と、若尾が愛なしでは生きられない人妻を熱演した川端康成原作の『千羽鶴』(96分)、そして、欲望のままに生きる女ミチの強烈な生き方と破滅を浅丘ルリ子がパンチの効いた演技で魅せた『女体』(95分)をたて続けに演出。'71年には野坂昭如原作、関根恵子主演で『遊び』(90分)を撮る。大人たちの汚れた欲望に屈せず青春の一瞬の輝きを熱演した高橋の初々しい姿は超魅力的。増村はこの後独立プロ系の仕事に目を向け、'75年の『大地の子守歌』(111分)では、原田美枝子が13歳で瀬戸内の小島に娼婦として売られた娘を好演。原田は女優賞を総なめにした。増村の女優を開眼させる手腕は見事というしかない。
【一部カラー】