〈1209〉『忘れられぬ人々』ROAD SHOW


●忘れられぬ人々 '96年のデビュー作『おかえり』が国内外で賞賛され、世界中の映画祭で数々の賞を受賞した監督・篠崎誠。彼の5年ぶりとなる、待ちに待った新作がようやく登場だ。今回、監督が主人公に選んだのは〈老人たち〉。太平洋戦争で戦死した仲間に対し、生き残って復員した自分たちの後ろめたさを常に抱え、それでも日々を端然と、またはほのぼのと暮らす男たちのささやかな日常。しかし一筋縄ではいかないこの天才監督は、〈老い〉という問題を美しく、癒しに満ちた映像で捉えつつ、お年寄りを狙う霊感商法の不気味な実体も忍び込ませる。そして繰り返されるハードな戦争描写と、まるでペキンパーのような壮絶な闘いへなだれ込む物語は絶品。今までに見たことのない広がりを持つ、不思議な魅力の映画となっている。
 三人の主役を演じるのは、元ヤクザで今は一人粛然と暮らす木島に、黒澤明や成瀬巳喜男といった名匠と組んだ都会派の名優・三橋達也。この作品では一瞬映る肩の傷痕にさえ、無言のまま男の背負った悲哀と深い凄みを放つ、素晴らしい存在感を見せる。また、50年連れ添った妻の命が長くないのを知り、不器用な愛情を見せつつ、その心の痛みから破滅を招きこむ平八に大木実。東映やくざ映画では堂々の貫禄を見せていた名俳優が、死に向かう妻を無骨な優しさで気遣う、涙無しには見られない円熟の演技は必見。そして、老婦人と微笑ましい恋に落ち、映画に洗練されたユーモアを散りばめる民夫には、小津映画では欠かせない名子役「突貫小僧」こと青木富夫。30代の監督のスピーディーな演出に、軽妙なセリフ回しと動きでしっかり応えるコミカルな芝居はみどころ。ナント三大陸映画祭では、三人が主演男優賞を同時受賞する快挙をなし遂げた。お年を召した方には勿論、若い人にも騙されたと思ってほんとに見て欲しい、感動と驚きの傑作。120分。

11/17(土)10:45の回終了後、篠崎監督と青木富夫さんの舞台挨拶あり

監督・脚本 篠崎誠
撮影 鈴木一博
脚本 山村玲
照明 上妻敏厚
録音 滝沢修
出演 三橋達也、大木実、青木富夫、内海桂子、風見章子 ほか

2000年 120分


【カラー】