〈1214〉『路地へ 中上健次の残したフィルム』MORNING & LATE ROAD SHOW


●路地へ 中上健次の残したフィルム 小説家・中上健次は、'92年、46歳で世を去るまで、自身の故郷である和歌山県新宮市の“路地”を見つめ、幾つもの自作の舞台とした。しかし被差別部落と呼ばれた場所“路地”は、70年代後半、再開発事業の一環で消滅していく。中上は消えゆく“路地”を16ミリカメラで撮影し、フィルムに焼きつけた。この映画は、中上に強い影響を受けた映画監督・青山真治(『EUREKA/ユリイカ』)が、中上の撮った映像を挿入しつつ、今はなき“路地”への旅をつづったフィルム・エッセイ。
 松阪の市街地を車が走っている。運転する男(井土紀州。三重県出身の映画監督、『百年の絶唱』など。)が「枯木灘」を朗読する声が聞こえる。車は42号線をひた走る。切り立った崖、萌える緑、そして海。カメラに切りとられた風景は、現実感を失う寸前で踏みとどまった、蜃気楼のような美しさだ。道はやがて終わり、男は舟で熊野川を下り、路地に辿り着く……。
 撮影・田村正毅。録音・菊地信之。使用曲は大友良英、坂本龍一ほか。現実音と音楽を繊細に織り合わせた、素晴らしい音響にも要注目。64分。傑作です。

監督・脚本 青山真治
撮影 田村正毅
録音 菊地信之
音楽 大友良英、坂本龍一 ほか
出演 井土紀州

2000年 64分


【カラー】