〈1238〉『素敵な歌と舟はゆく』ROAD SHOW


●素敵な歌と舟はゆく Adieu,Plancher des Vaches! 「息苦しい地上にお別れだ!」原題が導くそのままに爽快な本作は、グルジア出身で永いキャリアを持つ巨匠オタール・イオセリアーニから贈られた、豊饒でひねりに溢れたとびきりの傑作です。
 やりての実業家である母〈ペットはカラスとコウノトリ!〉がサロンを仕切る郊外の大邸宅。生まれついてのノマド系ブルジョアの父(イオセリアーニ)は、愛犬と執事を従え、猟と鉄道模型に沈溺し、長男ニコラは、毎日ボートに乗って、静寂に包まれた館と喧騒に満ちた〈悪い仲間〉の集うパリとを往還し、父ゆずりの無頓着さで、レストランの〈役たたず〉の皿洗いに甘んじて、それなりに自由を満喫しています。私たちは、彼の大胆にして複雑な行動を追いながら、いつしか登場人物たちが遭遇する様々な出来事に巻き込まれ……まるでJ・ルノワールのように巧妙で、放埒で、ラストシーンの解放感まで存分にしゃぶり尽くしていただきたい作品です。『恋ごころ』の撮影監督ウィリアム・ルプシャンスキーが、望遠鏡で世界を覗きみるような緻密で豊かな絵作りを担当。騒がしいパリ市街の音の再現もお見事。

監督・脚本・編集 オタール・イオセリアーニ
撮影 ウィリアム・ルプシャンスキー
美術 マニュ・ド・ショヴィニ
録音 フローリアン・アイデンベンツ、クロード・ヴィラン
出演 ニコ・タリエラシュヴァリ、リリー・ラヴィーナ ほか

1999年 117分


【カラー】