〈1244〉『少年と砂漠のカフェ』公開記念 A・ジャリリ特集


●少年と砂漠のカフェ Delbaran 国境に近い街デルバラン。小さなカフェを営む老夫婦のもとに、アフガニスタンからひとりの少年がやってきます。戦火を逃れてきた彼は、こまごまとした仕事を一生懸命手伝い、老夫婦はいつしか彼を本当の息子のようにいとおしむようになり、少年は生まれて初めて愛される実感を知り、ささやかな幸せを手に入れることとなります。祖国で苦難に満ちた厳しい経験をしてきたからこそ、老夫婦との生活は至福の時となるのですが、その幸福は、アフガン難民を探す警察官の来訪によって唐突に中断されるのでした・・・。
 戦乱に明け暮れるアフガニスタンと接し、流入した難民の数はすでに200万人とも言われる隣国、イランだからこそのリアリティーを持って作られたこの作品、監督したのは、イランの鬼才アボルファズル・ジャリリ。イラン国内では不遇ですが、『かさぶた』『7本のキャンドル』『ぼくは歩いてゆく』そして、『キシュ島の物語』の中の短編作品『指輪』などで国際的にはすでに高い評価を受けています。演技未経験の俳優とともに、あたかもドキュメンタリーのようなリアリティーを持って劇映画を作り上げる、「ドキュ・ドラマ」と呼ばれる独特の手法を駆使するジャリリの真骨頂とも言うべき傑作となっています。'01年作。96分。
○期間中、すべて子供たちに捧げられたジャリリのフィルモグラフィーから、アプローチの異なる未公開2作品を上映します。
●スプリング─春へ The Spring イラン・イラク戦争の最中、軍隊に占拠された街から、カスピ海を臨む森へ逃げてきた少年ハメド(メヒディ・アサディ:ファジル国際映画祭新人賞を受賞。『かさぶた』でも主演)と、森番の老人との交流を描く。戦火を離れても逃れられない戦争の現実を劇的な出来事で綴った、現在のジャリリの作品の印象とは異なる、どこかういういしい秀作だ。'85年作、86分。
●トゥルー・ストーリー The True Story 新作の主役サマドは幼い頃、足に火傷を負い、現在も悪化していた。それを知ったジャリリは撮影を放棄し、サマドの治療に専念し、その課程をフィルムに収めてゆく……現実と虚構の垣根を払った奔放な編集の原点となり、「ドキュ・ドラマ」と称されるジャリリの手法の真骨頂とされる極めて貴重な作品。'96年作、125分。


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