〈1266〉for ever godard
ジャン=リュック・ゴダール作品連続上映


●はなればなれに Band a Part 2001年初公開。なぜこんなに楽しく美しくみずみずしい映画が未公開だったのか J・L=ゴダールの最高傑作と噂も高い逸品。まばゆく繊細なアンナ・カリーナに恋をするチャーミングな犯罪者サミー・フレイとクロード・ブラッスールの切ないノワール・コメディ。撃て(冷酷に)、踊れ(キャメラに向かって)、走れ(ルーブルを超えて)の96分。
●ウイークエンド Week-end 60年代ゴダール作品『中国女』と『ワン・プラス・ワン』の狭間だから「あの解らん頃の…」と、アナタの敬遠は大マチガイ。いきなり浮気者のコリンヌ(ミレイユ・ダルク)のささやきがバタイユの〈眼球譚〉さながらエロティックな興奮を高め、このとことん不道徳でみごとなまでに2002年秋冬のモード感とシンクロする洒落っぷりのコリンヌとロラン(ジャン・ヤンヌ)の心なき夫婦の暴走する週末の幕が開く。全編のポップでノイジーなイメージが極まった300Mロケの大渋滞シーン(涙モノのヨーロッパ・カー・コレクションと人間観察の凄さ!)、指輪物語のように展開する冒険活劇トリップ(本当は、大富豪のコリンヌの父の死を待ちかねて遺産をぶんどりに行くんだけどネ)の果てに、ルォム・ヴォーグから跳び出したようなビートニクス・テロ集団に拉致される二人。革命、思想、消費文明への愛憎が刻みこまれたクレイジーな傑作。もうサイコーです。出演はJ=P・レオー、A・ヴィアゼムスキー、ラズロ・サボ。104分。
●フォーエヴァー・モーツアルト For Ever Mozart 映画監督ヴィタリスは、アンドレ・マルローの『希望』を翻案した舞台公演『希求』を準備中だ。娘と甥の2人は、「内戦下のサラエヴォでは、ベケットではなくてマリヴォーを上演すべきだ!」というアジテーションに煽られて、公演を行うためにサラエヴォに向かう。結局は本屋で台本が見つからず携えたのは、ミュッセの「戯れに恋はすまじ」だったのだが。2人に同行したヴィタリスは、サラエヴォを目前に離脱。一向は混乱する戦場で流れに巻き込まれ、演劇公演どころではなくなってしまう。パリにもどったヴィタリスは、新作映画『宿命のボレロ』の撮影に入るのだが……。
 戦争の世紀、20世紀の最後を締めくくるように作り上げられた本作は、J=L・ゴダール、快心の傑作。ユーゴスラヴィアの内戦を対岸の火事とは言い切れないもどかしさが、ヨーロッパの世紀の終焉とも重なり、80年代ゴダールの韜晦とは一線を画して、スリリングに突き抜けた傑作として結実した。85分。
●JLG/自画像 JLG/JLG Autoportrait de Decembre スイス、レマン湖のほとりにあるゴダールのアトリエに電話がかかってくる。映画製作の依頼だ。ドキュメンタリーとも劇映画ともとれるこの作品の主人公は、ゴダール自身だ。ハイデガーやディドロの著作からの引用も交えながら、監督自身の内面の乱反射が、切々と語られる。ランプシェイドから漏れくる光、海辺の淡い夕暮れ、道路に降り積もる雪。穏やかな画調の質感が見事に閉じ込められ、フィルムに定着される。90年代ゴダール作品のエッセンスを極めたスペシャルエッセーともいうべき、濃密な濃密な56分。
●フレディ・ビュアシュへの手紙 Lettre a Freddy Buache F・ビュアシュとは、卓越した見識で、アンリ・ラングロワと並び称せられるシネアストにして、スイス、ローザンヌにあるシネマテークの館長。彼への手紙という形式を借りて、ゴダールが自身の語りで構成した短編作品。ドキュメントとフィクションの関係、現実と作品との関係についての考察を進めている。12分。


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