〈1320〉『能楽師』『藤田六郎兵衛 笛の世界』(2本立)MORNING SHOW
●藤田六郎兵衛 笛の世界 名古屋在住で、藤田流十一世宗家として、力強い演奏で能舞台にさらなる息吹を与えてきた笛の第一人者、藤田六郎兵衛。能楽師笛方の魅力をあますことなく伝える田中千世子監督の、第一回ドキュメンタリー作品。36分。
●能楽師 600年前に完成され、研ぎ澄まされた伝統の先に、さらに未来が模索される古典芸能のひとつ、能。『能楽師』は、観世流のシテ方として数々の舞台を作り上げてきた、関根祥六(2002年芸術院賞受賞)、祥人(1998年芸術祭新人賞受賞)父子の魅力に迫るドキュメンタリーだ。何の前触れもなく始まるこの映画は、何よりもふたりの一挙手一投足を丹念に記録する。華麗かつ繊細であり、しなやかさと強靭さが、そして、静寂と激動が同時に立ち現われる稀有な瞬間が連続し、息をつくまもないほどだ。特に祥人演じる「道成寺」のクライマックスともいうべき長い長いシーンの存在感は圧倒的で、映画であることを忘れてしまうぐらいに生々しい。随所にはさまれる世阿弥の名著「風姿花伝」の一節(朗読は佐野史郎)が、抽象的な芸術論ではなく、肉体を通した表現の中からまとめられたことが、まざまざと実感される。格式に気圧されがちな未知の世界へといざなうのは、映画評論家としても著名な田中千世子。能の面白さを存分に体感できる60分。
監督 田中千世子
撮影 川上皓市
録音 中山隆匡
編集 富田功
音楽 梅林茂
2002年 60分
【カラー】