○木村威夫(1917〜) 言わずとしれた映画美術監督の巨星。45年デビュー。以後、大映・日活の両社で文芸作品からアクションまで幅広いジャンルの映画美術を手がける。中でも異才・鈴木清順監督とのコンビに、奇想に富んだ傑作多数。72年からフリー。熊井啓、黒木和雄ら巨匠との作品のみならず、若手監督の低予算作品にも積極的に参加。ゲリラのパパ、略して“ゲリパパ”の異名をとる。手がけた作品が229本に達した2002年、川崎市市民ミュージアムで大規模個展「夢幻巡礼」を開催。それを契機に『夢幻彷徨』を初監督することとなる。2004年6月、映画美術の奥義を語り尽した大著「映画美術 擬景・借景・嘘百景」をワイズ出版から刊行(荒川邦彦 編)。最新作は鈴木清順監督との15本めのコンビとなる『オペレッタ狸御殿』(仮題)。 ●雁 森鴎外の原作を豊田四郎が映画化。人生の不遇に耐えるヒロインを高峰秀子が好演した。美術は、木村の師・伊藤熹朔と共作。三棟のステージをぶち抜いた圧巻のセットをはじめ、見どころが多い。104分。 ●自分の穴の中で 巨匠・内田吐夢が大胆な手法で描いた、ある家族の崩壊の物語。木村は監督の無理な注文に次々と応え、柔軟な発想と手堅い実力を見せた。出演=北原三枝、月丘夢路、宇野重吉。124分。 ●怪盗X 首のない男 内田吐夢作品での名演で知られる小杉勇の監督作。都築道夫の原作を、宍戸錠主演で映画化した、痛快娯楽作。奇々怪々な美術が楽しい。83分。 ●東京流れ者 鈴木清順&木村威夫の日活時代の代表作。不死鳥の哲(渡哲也)の放浪の旅を、凝った色彩、象徴的なセットを使って描き出す。死の影、孤独、噴出する激情……今なお鮮烈な傑作。83分。 ●みな殺しの拳銃 長谷部安春のハードボイルド・アクションの秀作。巨大なやくざ組織に立ち向かう兄弟たちを、スピード感あふれるタッチで描き、強烈に誇張された美術がそれを補強する。出演=宍戸錠、藤竜也、二谷英明。89分。 ●紅の流れ星 舛田利雄が、ゴダール『勝手にしやがれ』を意識して撮った、ヌーヴェルヴァーグタッチのサスペンス。渡哲也の軽やかなキャラクターにあわせるように、美術にも軽妙な味わいがある。98分。 ●昇り竜 鉄火肌 番外地シリーズ、異常性愛路線でヒット作を連打していた石井輝男が、日活で取り組んだ女侠客もの。木村は、石井の奇智あふれる演出にあきれながらも、遊び心のあるデザインで応えた。90分。 ●忍ぶ川 日活を離れた木村のフリー第一作。料亭の看板娘(栗原小巻)と学生(加藤剛)の純愛を、透明な叙情性と張りつめた緊張感の中に描いた、熊井啓の名作。美術は、限られた予算と闘いながら、凝縮した造形美を見せる。木村にとってもひとつのエポックとなった仕事だ。120分。 ●夢幻彷徨 木村威夫、映画監督デビュー!自らの戦争体験をモチーフに、戦火の中で出会った男女の恋を描く。デジタル技術を駆使した繊細かつ大胆な映像美。しなやかな精神が反映するイメージに酔わされる。35分。●街 同時上映短篇。元キャロルの内海利勝のプロモーションビデオを演出した作品。ほぼ全編横移動し続けるカメラが多彩なイメージを捉えていく。4分31秒。 |
2004
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