○成瀬巳喜男(1905-1969) 東京生まれ。15歳で松竹キネマ蒲田撮影所に小道具係として入社。後に池田義信、五所平之助の助監督を務める。1929年『チャンバラ夫婦』で監督デビュー。以後、PCL・東宝などで、社会の片隅にいる陽のあたらぬ人々をその環境を含め精緻に描写した全89作品を監督し、数多の傑作を残す。女流文芸小説を演出した戦後作品で、溝口健二、小津安二郎、黒澤明と共に、日本映画の巨匠として世界にその名を知られている。 ●夜ごとの夢 1933年/64分/白黒/サイレント 出演:栗島すみ子、斎藤達雄、小島照子 子どもを育てながら女給をしているおみつ(栗島)のもとに、行方知れずの夫・水原(斎藤)が帰ってくる。貧しい親子三人のくらしを再びはじめたものの、夫の仕事口は見つからず…。映画女優・第一世代の大スタア栗島すみ子が、シングルマザー・妻・女給の三つの感情に引き裂かれて生きる近代的な女性像を熱演するサイレント期の傑作。 ●噂の娘 1935年/54分/白黒 出演:千葉早智子、梅園龍子、伊藤智子、藤原釜足 傾きかけた老舗酒屋の美しい二人の娘。母亡き後、一家を守る姉・邦江(千葉)と現代的な妹・紀美子(梅園)。妹が父と愛人との間の子であることを知っている邦江は、三人が晴れて一緒に暮らせるように、見合い結婚をして家を出ようとする。チェーホフの「桜の園」を下敷きにした成瀬のオリジナル脚本。深川ロケが東京のウォーターフロントの情景を鮮やかにとどめる名作。 ●めし 1951年/97分/白黒 出演:原 節子、上原 謙、島崎雪子、杉村春子 結婚五年目で倦怠期を迎えた夫婦(原、上原)のもとに、夫の姪・里子(島崎)が突然転がり込んでくる。奔放な里子がかき乱す生活は、夫婦にとってひとつの転機となっていく。林芙美子の未完の遺作を追慕するかのような優しさに満ちた結末が与えられた。質実な生活の中での室内撮影の素晴らしさに加え、屈託する原のリアルな表情が心に触れる代表作。 ●山の音 1954年/94分/白黒 出演:原 節子、山村 聰、上原 謙、中北千枝子 修一(上原)の浮気に気づいた菊子(原)。子どものいない息子夫婦の危機に心を痛める舅の信吾(山村)もまた、愚痴っぽい妻と子連れで出戻ってきた娘(中北)によって鎌倉の穏やかな生活を揺るがされている。静かに共感を寄せあう嫁と舅、対照として描かれる絶妙に世俗的な家族。そのどちらにも成瀬的な洞察がいきとどいている。原作:川端康成。 ●浮雲 1955年/122分/白黒 出演:高峰秀子、森 雅之、岡田茉莉子、加東大介 終戦から遅れインドシナから引き揚げてきたゆき子(高峰)。帰国後、現地で愛人関係だった富岡(森)を訪ねてみると彼には妻がいた。異国で愛し合った過去を持つ一組の男女が敗戦後の世情の中で、変遷と転落を重ねて愛をさすらう。林芙美子の同名小説の映画化。アキ・カウリスマキ、レオス・カラックスら、海外の作家にも大きな影響を与えた恋愛映画の最高峰。 ●娘・妻・母 1960年/122分/カラー 出演:原 節子、森 雅之、高峰秀子、仲代達矢、三益愛子 還暦を迎える母(三益)、長男夫婦(森、高峰)と子ども、三女・春子(団令子)が同居する坂西家に、夫と喧嘩した長女・早苗(原)が帰ってきた。そこへ早苗の夫が事故死したという訃報が届く…。人気俳優(他に、宝田明、笠 智衆、上原 謙、草笛光子ら)が集ったオールスター映画として、初公開時に大ヒットしたホームドラマ。 ●放浪記 1962年/123分/白黒 出演:高峰秀子、田中絹代、小林桂樹、仲谷 昇 昭和の始め。貧しい行商人(田中)の娘ふみ子(高峰)は、工場で働きながら詩作を続けている。 その詩を認めた伊達(仲谷)から同人誌に誘われ、やがて同棲。両親への仕送りや伊達との生活を支えるため、ふみ子は牛めし屋の女中に。しかし伊達が女優と交際していると知り、部屋を飛び出してしまう。逆境をはね除け、昭和を代表する女流文士となった林芙美子の出世自伝作の映画化。 ●乱れ雲 1967年/107分/カラー 出演:司 葉子、加山雄三、草笛光子、森光子 通産省に務める夫を失った由美子(司)。加害者・史郎(加山)は事故の責任で婚約者と仕事を失うが、由美子に対して補償金を送り続けている。やがて郷里へ戻り実家の旅館を手伝い始めた由美子は、送金を断るため、史郎のもとを訪れる。過去の苦しみの記憶につきまとわれる男女を描き、メロドラマの最高傑作とも言われる遺作。 |
2006
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