●楽日 不散 Goodbye, Dragon Inn かつて隆盛を誇った台北の名門映画館、福和大戯院。今日もキン・フー監督の名作『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』が上映中だ。満員でざわめく客席を見守る受付担当の女は静かに場内を歩く。その視は、暗闇でうごめく別の客層の人々、時間が錯綜するかのような幻、そして、言葉を交わすこともない映写技師へも向けられる。日が暮れて、いつしか人の気配も消え、大きな喪失感がすべてを支配する。長く濃密な静寂が訪れ、雨音だけが響く中、「映画の世紀」が幕を閉じる。ツァイ・ミンリャン監督らしいマジカルな印象の残る82分。 ●西瓜 天邊一朶雲 The Wayward Cloud 前代未聞の水不足で、ミネラルウォーターさえ品薄になり、安価な西瓜ジュースを政府が奨励する異常事態の台北。腕時計売り(『ふたつの時、ふたりの時間』)からAV男優に転身したシャオカンは、今日も過酷な撮影に挑む。偶然再会したシャンチーには、今の仕事は内緒で、何とか親密な関係になりたいのだが、なんと、撮影現場と彼女の住まいは同じマンションだった! シャオカンの涙ぐましい努力は実を結ぶのか? 奇妙キテレツなミュージカル仕立ても空前絶後な面白さ。ポップでキッチュな魅力を怪しく放つ112分。 ●迷子 不見 The Missing 『楽日』と対をなす短編企画(原題『不散』『不見』は友人同士の別れの挨拶とのこと)だったが、どちらも独立した長篇として成立。ツァイ・ミンリャン作品の看板俳優リー・カンションの初監督作品。トイレに行っている間に孫を見失った老婆が、迷子を探して公園中を探し回り、ついには、あたりの人々を巻き込んだ大騒ぎとなる。一方で、祖父の作った弁当を棄ててしまった少年がのんきにハンバーガーなど頬張っているが……。人間関係が希薄になった現代人の諸相を照らし、リー・カンションの新たな才能を確信させる野心作。88分。 |
2006
※前売券販売は公開前日までです。 |