○去る1月11日に、惜しまれつつ世を去ったエリック・ロメール。かつてはカイエ・デュ・シネマ誌の編集長として、ゴダールやトリュフォーといったヌーヴェル・ヴァーグ世代の兄貴分として、彼らが映画作家として活躍する土壌を作る。自身も大学で教鞭をとる傍ら、軽やかに映画監督を続け、世界中の低予算映画作家の模範であり、そしてまた、エスプリ溢れる知的でオシャレなフランス恋愛映画監督の代名詞として、常に新作が待たれた存在。享年89歳。晩年は体調の悪化に苦しみつつ製作を続け、『我が至上の愛 アストレとセラドン』を最後に引退を表明していたが、まさか、本当の遺作とは信じなかったファンも少なくないはず。不意に新作が届くかもという予感を未練と嘆きつつ、女性心理暴露の達人、意地悪じじいロメールの追悼特集をお贈りします。 「喜劇と格言シリーズ」からは、玉の輿結婚を狙う大学院生女子を描く『美しき結婚』(Le Beau Mariage 100分)、アマンダ・ラングレの伸びやかな肢体に幻惑される『海辺のポーリーヌ』(Pauline a la plage 95分)、知的で奔放なブルジョワを演じるパスカル・オジェ(この映画撮影直後に死去)の瞳に吸い込まれそうな『満月の夜』(Les Nuits de la pleine lune 102分)、マリー・リヴィエールの自意識過剰が屈折したバカンスへと誘う『緑の光線』(Le Rayon vert 98分)、正真正銘の四角関係恋愛模様の『友だちの恋人』(L'ami de mon amie 98分)の5作品。80年代後半から90年代前半にかけて、矢継ぎ早に紹介されたこの連作でミニシアターでの評価を不動のものとした。小粋な連作オムニバス『レネットとミラベル 四つの冒険』(Quatre aventures de Reinette et Mirabelle 97分)を挟んで、「四季の物語シリーズ」からは、不幸な偶然から未婚の母となる女性の数年間をロメールらしからぬダイレクトなタッチで描く『冬物語』(Conte d'hiver 114分)、『緑の光線』の青年版ともいうべきメルヴィル・プポーの出世作『夏物語』(Conte d'ete 114分)。さらに、パリを舞台にした恋愛オムニバス『パリのランデブー』(Les Rendez-vous de Paris 95分)を経て、時代物と呼ぶには、あまりも野趣溢れる古代ローマ時代の恋愛劇にして、集大成となった遺作『我が至上の愛 アストレとセラドン』(Les Amours d'Astree et de Celadon 109分)。 |
2010
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