死なない子供、荒川修作
●死なない子供、荒川修作 岐阜県のテーマパーク「養老天命反転地」、奈義町現代美術館の「太陽の部屋」など壮大にして奇想天外な作品群で、世界的に名高い荒川修作(1936〜2010)。美術家という枠を超えて活躍した彼が2005年に建造したのが「三鷹天命反転住宅〜in Memory of Helen Keller〜」だ。荒川は言った「俺は、人間が永遠に生きるってことを発見した。ここに住むと人間は死ななくなる」と……。
 本作は、そのカラフルで仕掛けに満ちた“死なない家”に住む映画監督・山岡信貴が、家族との日々の暮らしを記録しながら、稀代の表現者・荒川修作の足跡を辿ったドキュメンタリー。“死なない家”での暮らしは、住人にどのような影響を与えるのか? 映画は、荒川の思考を読み解きつつ、未来へと限りなく開かれたその偉業を描く。荒川の数々の名言も、たっぷり収録。人を引きつける磁力の塊のようだった天衣無縫なキャラとともに、お楽しみ下さい。ナレーション=浅野忠信。80分。



荒川修作を語る
馬場 駿吉


 馬場さんは、俳人・美術批評家で、現在はボストン美術館の館長を務めていらっしゃいます。元々は耳鼻咽喉科がご専門のお医者さんで、名古屋市立大学病院長も務めておられました(現在は名誉教授)。荒川修作さんの作品とは1961年の個展で出会い、以後半世紀近く見続けてこられました。荒川さんの良き理解者であり、生前の荒川さんが最も信頼を寄せていた方です。まず映画『死なない子供、荒川修作』の主な舞台である「三鷹天命反転住宅」のお話から伺います。

 1995年に「養老天命反転地」を作った後、荒川は次はホテルを作りたいと言って、候補地を探し、交渉していましたが、なかなかうまくいきませんでした。「養老天命〜」も画期的ではあったけれど、あの場所から受ける刺激はどうしても一時的なもので終ってしまう。もっと様々な刺激が持続して人に加わるようにと考えて、ホテル、住宅、都市そのものを作ることへと発想が広がっていったようです。それで2005年に、「三鷹天命反転住宅」が完成します。色使いはカラフルで、床はデコボコしていたり、傾斜があったり、土が入っていたり…という建築の常識とかけ離れた住宅です。そんな環境に包まれるように生活することで人間の身体は変わっていくというのが荒川の考えで、それはここでかなり実現したのではないでしょうか。

 様々な刺激が身体を活性化させるというのは分かるんですが、それと荒川さんの言う「人間は永遠に死なない」ということは、どうつながるのでしょう?

 荒川は、生物学的な死を避けられるとは考えていなかったと思います。彼が言っていたのは、自分の中の生命の結晶のようなものを何らかの形で、例えば作品なり住宅なりの形で外在化させるということです。それをある場〜ランディング・サイトという言葉を使っていましたが〜に着地させ、第三者が体験したり、使ったりしていくことで、死なない状況が継続していくということなんです。

 あの強烈な口調で「人間は死なない!」と言われると、つい本当かもと(笑)。

 荒川の初期の作品でも、棺桶の中に卵巣や卵胞のようなオブジェが詰まっているものがあって、外側は死(棺桶)なんだけれど、内側は生命・生殖に関連したイメージが入っている。そうやって生と死を対比させ、死を生に反転させるということを、彼はずっとやってきたと思うんです。それは死を前提にした宿命論から脱却して、生に対する意欲をかき立てようということだと言ってもいい。

 映画の中でも「老人ナイトクラブを作る」とか「盲目の人達が先頭に立てる社会を」と仰っています。これは現在の高齢化社会の問題や、弱者が生きやすい社会をどう作るのかということとつながってきてますね。

 友人の瀬戸内寂聴さんが「彼の考えていることは、今は奇異に感じるかもしれないけれど、10〜20年ぐらい経つと自然に分かってくる」と荒川をフォローしていたことがあるんですが(笑)、実際20年以上前から、今の世の中の趨勢を予見した発言をしていましたね。しかし映画で三鷹の住宅をご覧になれば分かるように、バリアフリーの要素は無いんです。むしろ床の傾斜や段差を残すことで、足腰の老化を防止しようという考え方でした。

 この映画は、その「三鷹天命反転住宅」に住んでいる映画監督・山岡信貴から、荒川さんへの手紙のような形をとっているのですが、ご覧になっていかがでしたか?

 実際にそこで生活した人でないと分からないことが描かれているので、とても面白かったですね。荒川の言っていたことがどの程度実現しているのか、とりあえずのレポートとして非常に意味がある。映像にしても音楽にしても、それぞれのやり方でチャレンジしているところがあって、それも良かった。荒川もこれを見たら、きっと喜んだと思いますよ。

 荒川さんは、大きな謎をかけたまま、いなくなった人という印象があります。この映画は、それに対するひとつの答なんでしょうね。

 その話につなげて言うと、最近気になっていることがあります。1957年に、あるイベントで寺山修司が荒川に会っていて、「荒川というのはすごい男だ」と書いているんです。その時のことを荒川に聞いてみたかったと思って。

 そういえば、映画の中に「一万年後に会おう」という荒川さんの言葉が引用されています。寺山の遺作『さらば箱舟』のラストのセリフは……

 そう「百年経ったら、その意味わかる」。どこかで二人はつながっていたんでしょうね。今まで気がつかなかったけれど。

(2010年11月23日 文責=編集部)


2010
1/15(土)
〜1/21(金)

18:30

1/22(土)
〜1/28(金)

12:15
15:40



前売券
一 般 1400円
大学生 1400円
会 員 1200円
当日券
一 般 1700円
大学生 1500円
シニア 1000円
中高予 1200円
会 員 1300円

当館窓口にて前売券をお求めの方、オリジナルカードをプレゼントします(数量限定)。
※前売券販売は公開前日までです。
オフィシャルサイト

監督 山岡信貴
音楽 渋谷慶一郎
ナレーション 浅野忠信
出演 荒川修作、佐治晴夫 他

2010年 80分