○1960年代にフランスで始まった、新しい映画のムーヴメント“ヌーヴェル・ヴァーグ”と同様にイタリアのネオ・レアリスモの影響下にあったのが、ほぼ同じ頃にブラジルで反ハリウッドモデルを掲げた“シネマ・ノーヴォ”。キーワードは「手にはカメラを、頭には思想を」。ブラジル文化の流れの中では、ボサノヴァの誕生期と重なる。娯楽大作主義のスタジオの倒産を機に、政治的な主張も隠さず、低予算作品で現実をダイレクトに映し出す方向性で、一世を風靡した映画運動の中核を担ったジョアキン・ペドロ・デ・アンドラーデ、ネルソン・ペレイラ・ドス・サントス、グラウベル・ローシャの3人の監督の作品を特集。『アントニオ・ダス・モルテス』でカンヌ国際映画祭監督賞を受けたG・ローシャはゴダールの『東風』にも出演した。 ●マクナイーマ Macunaima アマゾンの密林で生まれた瞬間にすでに中年の男だったマクナイーマ。おとぼけ兄弟と大都会へ! 奇想天外なストーリーが極彩色に展開するアンドラーデの野心的コメディ(?)。『エル・トポ』のごとく、D・リンチ作品のごとく、物語が脱臼しまくる105分。 ●リオ40度 Rio, 40 Graus 灼熱の都会であえぐ貧しいピーナッツ売りの少年を中心に、欲望渦巻くリオの実状を描き、シネマ・ノーヴォの幕開けを告げた、ドス・サントスの初長編作。パリ上映では、トリュフォーやゴダールを熱狂させた。100分。 ●乾いた人生 Vidas Secas ブラジル文学史上不滅の作品と謳われるガルシリアーノ・ラモスの原作をドス・サントスが映画化した、ブラジル版『怒りの葡萄』。東北部の内陸地帯で、干ばつに翻弄され続ける農民一家の苦悩の日々は、過酷と言えば、あまりに過酷。105分。 ●切られた首 Cabecas Cortadas シネマ・ノーヴォそのものとも言える論客ローシャの寓話的物語。架空の国の権力者を夢想する男と不思議な力を持つ羊飼い、圧政に反抗する人々のダイナミズムをオール・スペインロケで描く94分。 ●夫婦間戦争 Guerra conjugal ブラジル南部の街クチバを舞台にした3つの男女の物語。クライアントの女性を誘惑しようとする弁護士、究極の快楽を与えてくれる女性を探す男、そして諍いを繰り返す初老の夫婦。艶笑コメディの形式をとりつつもブラジル社会を鋭く批評した作品。88分。 |
2011
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