シクロ Cyclo


 カンヌ映画祭カメラドール賞、セザール賞新人監督賞を受賞し、アカデミー外国語映画賞にもノミネートされたデビュー作『青いパパイヤの香り』に次ぐ、トラン・アン・ユン監督の長編第2作。12歳のときベトナム戦争の戦火を逃れフランスへ移ったトラン・アン・ユンにとって、念願だった初の現地ロケーションで撮り上げた、鮮烈な人間ドラマだ。
 舞台は喧噪渦巻くホーチミン市。主人公シクロは輪タクの運転手として昼夜を問わず街を走り回っていたが、商売道具を盗まれたことをきっかけに人生が暗転、犯罪組織の一員となってしまう。そこで彼は、詩人と呼ばれる男と出会う。詩人は、絶望と虚無に支配された破滅型のアウトローだが、なぜかシクロには優しい。しかしシクロの姉が詩人のもとで売春まがいの行為をし、しかも詩人を愛していることが明らかになるにつれ、事態は次第に悲劇の様相を帯び始める。
 主演のシクロには新星レ・ヴァン・ロック。詩人役は『悲情城市』『恋する惑星』のトニー・レオン。シクロの姉には『青いパパイヤの香り』のヒロイン、トラン・ヌー・イェン・ケー。ベトナム社会の脈動とそこに生きる人々の息吹を、ほとばしるような光と色彩で捉えた、躍動感あふれる傑作である。128分。【カラ−】