ママと娼婦 La maman et la putain


 '73年、デビュー長編である本作でカンヌ映画祭審査員特別賞(委員長:イングリット・バーグマン)を受賞したジャン・ユスターシュ(1938〜81)。ゴダール、トリュフォー、ロメール、カラックスらの絶賛を浴び、'68年5月革命以後の精神を最もよくとらえたと評価されてきた『ママと娼婦』は、上映時間の長さ、カラー全盛時代に16ミリ・モノクロによる長回しの撮影、全編同時録音、という商業性を排したスタイル、なおかつこの挑発的なタイトルにより劇場公開まで20年を経たにもかかわらず、まさしく“私たちのもの”である映画の欲望を満たし尽くす素材を寸分も錆つかせることなく再生した。
 財産も仕事もなく、冗舌な言葉だけを唯一の資産として生きているアレクサンドル(ジャン=ピエール・レオー)はママのような包容力で彼を見守る年上の愛人マリー(ベルナデット・ラフォン)の元に寄宿している。本心とも冗談ともとれる態度でつきまとっていたジルベルト(イザベル・ヴェンガルテン:ブレッソンの『白夜』)にふられた日、カフェで不思議な女の子ヴェロニカ(フランソワーズ・ルブラン)に声をかける。セックスについて躊躇のない彼女との駆け引きや、鷹揚に見逃していたマリーが次第に焦燥にとらわれることに楽しみすら覚えるアレクサンドル。
 誰かが想いを吐き出せば、一瞬揺らぐ関係。だが涙や妊娠や自殺でさえ変えられない精神をユーモアたっぷりに描く。220分。【モノクロ】