◎『国士無双(発見部分)』上映と対談


伊丹万作監督のサイレント映画『国士無双』は、去る第9回東京国際映画祭の「ニッポン・シネマ・クラシック」部門に、〈9.5ミリ〉という珍しいフィルムでの現存部分が35ミリで復元上映された。9.5ミリは、16ミリ、8ミリに先駆けて普及した小型映画用フィルムで、今回発見されたもののように短縮版、抜粋版として頒布されることが多かったそうだ。トーキーへの移行期に製作され、失われたとみなされていた作品の発見、上映、そして当館のような地方での上映に至るまでの経緯で、その発見と公開に貢献された山根貞男氏(映画批評家)、安井喜雄氏(プラネット映画図書館)の、まさに活劇的な興奮を伝えていただく対談、そして精神主義・権威主義を否定した伊丹監督の風刺、諧謔を本作品にて再認していただきたいと考えています。さて、小さなエピソードをひとつ。本上映に課された「必ずサイレント回転にて上映する」こと。現在、サイレント映画がごく当たり前にトーキー回転で上映されがちな中、とても嬉しいと同時に苦しい条件でした。かねてから当館の35ミリ映写機で、サイレント回転を再現することが色々な事情で難題となっていたのです。そこへ、安井氏から「16ミリを焼いては?」という妥協案が。35ミリのオリジナルが、9.5ミリの抜粋版で私蔵され、それが35ミリとして映画祭で再生され、16ミリとしてここへやってくるのです!「無双」という言葉が、伊丹的ウィットに導かれたような次第です。
『国士無双(発見部分)』 1932年、25分、監督・脚色:伊丹万作、脚本:伊勢野重任、出演:贋者(片岡千恵蔵)、仙人(伴淳三郎)、お八重(山田五十鈴)、伊勢伊勢守(高勢実乗)

浪人たちが通りがかりの青年(片岡)を天下随一の剣士、伊勢伊勢守に仕立てあげ、豪遊をもくろむが、贋(にせ)者は浪人たちの卑しさにあきれて去る。怒った浪人たちは、贋の存在を伊勢守本人に告げる。その頃、贋は悪漢に襲われたお八重を救った縁で、お八重の父に会うと、父は伊勢守その人。それを知らずに、ぬけぬけと名乗る贋。威信を失った伊勢守は贋に対決を挑むが、あっさり負ける。一転、悲壮な決意で山奥の仙人の元で修行する伊勢守。三年の後、下山し再び贋に挑み、また負ける。伊勢守は名を贋に譲ろうとするが、贋は、拙者には贋も本物もない、勝つも負けるも自分があるだけと、お八重を連れて去る。(1932年1月14日初公開)【モノクロ】