北野武の世界


北野武 お笑いシーンの最先端に位置しつづけるビートたけし。彼が映画監督となって、すでに7年あまりが過ぎた。片手間と思われた仕事が、オヅ、クロサワについで世界で認められる才能へと伸びると誰が想像しただろう。必ずしも「映画」として評価されなかった初期作を含め、映画作家北野武の全貌を捉えてみたい。

●その男、凶暴につき
 浮浪者を襲撃する少年たちの残酷さを冷徹に捉えるシーンから始まる、当時賛否両論だった第一回監督作品。汚職刑事アズマの怠惰で激烈な日常を、感情を表さない妹(川上麻衣子)や、クールな殺し屋(白竜)との、交わらないようで交わる感情の変化を追いつつ、過激なタッチで描く。103分。

●3−4X 10月 
草野球チームでも万年補欠のヌボーッとしているだけの青年(柳ユーレイ)が巻き込まれる、奇々怪々なヤクザの抗争が、白昼夢のように無節操に展開する。当時、「軍団、大暴れ!」とのコピーが踊ったが、総出演はするものの、他の北野作品同様、演技は極端に静溢なままシーンそのものはハデハデしく炸裂する奇妙な映画。今をときめく豊川悦司の出世作。96分。

●あの夏、いちばん静かな海。 
サーフボードに静かに熱狂する青年と海岸から彼を優しく見守り続ける恋人という、聾唖者のカップルの飾らない日常を、優しく丹念に捉えた作品。この作品から北野自身が編集にも参加し、必然的に切り詰められたセリフのやりとりは高度な編集テクニックへと結実している。全編スリリングな静けさに満ちたタイトな演出だが、ラスト近くに一気に繰り出される美しいショットの嵐は涙なしでは観られない。101分。

●ソナチネ 北野武の死生観が最も色濃くでた作品。BBCが史上ベスト100に選ぶなど、海外での評価も非常に高い。抗争のために沖縄に大挙して駆けつけるが、相手の居場所も味方の出方もさっぱり見えず、死者だけが増えていく。海辺へ避難してだらだらと過ごす日々に潜む得体の知れない緊張感の正体が、この作品を支配する圧迫感を象徴していることはいうまでもない。94分。

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