武満徹の世界−音楽の希望、映画の夢−


武満 徹(1930〜96)

 東京の本郷生まれ。早坂文雄の助手として映画音楽に接し、'56年『狂った果実』でデビュー。以後、同世代の篠田、大島、勅使河原宏らの作品を中心に百本近い映画作品の音楽を担当した。「ノヴェンバー・ステップス」などで知られる国際的な作曲家であり、「夢の引用」をはじめとする随筆の名手でもあった。'96年2月20日死去。

●儀式 『絞死刑』『少年』などATGcと組んだヴィヴィッドな映画作りで時代をリードしてきた大島渚が、伝統的な冠婚葬祭の儀式を通して、戦後日本の歩みを総決算すべく取り組んだ渾身の力作。明晰な知性と濃密な感情が交錯する力強い演出に、武満の音楽も存分に応えた。戸田重昌の美術も圧巻。キネ旬1位。123分。

●心中天網島 篠田正浩が長年あたためていた近松の映画化を、詩人の富岡多恵子と武満の共同脚本を得て完成させた、鮮烈な一編。ラジオの音楽劇でも近松を取り上げたことのある武満は、ガムランやピグミーの音楽をデフォルメして、極限のエロスを表現した。出演=岩下志麻。美術=粟津潔。キネ旬1位。104分。

●狂った果実 才気あふれる中平康の演出とパワフルな裕次郎のキャラクターがスパークした、青春映画の傑作。トリュフォーが惚れこんだシャープでスピーディな中平タッチは、今も古びることなく若さの情熱と痛みを伝えてくれる。佐藤勝が主題歌を作曲、ジャズとハワイアンを融合した武満の音楽も斬新だ。86分。

●乱れ雲 名匠成瀬の遺作。夫を事故で亡くした人妻(司葉子)と加害者である青年(加山雄三)との憎しみと愛を描く。音楽はリリカルに映像によりそい、武満の叙情性のひとつの到達点を示す。キネ旬ベストテン4位。108分

●夢窓一庭との語らい Dream Window 『老人と海』で知られるJ・ユンカーマンが、庭園文化を中心に日本について考察を巡らすドキュメンタリー。武満、朝倉摂、大岡信らへのインタヴューと、龍安寺、西芳寺などの四季を撮った部分とから成り、自然を意識した武満の曲調がそこに美しく調和する。初公開。58分。

●怪談 小泉八雲の原作による4話のオムニバス作品。楽器による演奏をほとんど使わず、加工され変質した音の響きで全編の恐怖を盛り上げた、画期的な実験作。ジョン・ケージ、クセナキスからも賞讚された武満の代表作である。キネ旬2位。161分。

 講師紹介 ○馬場駿吉氏 1932年名古屋生まれ。耳鼻咽喉科学の医学博士として臨床医を務めるかたわら、俳人、美術・演劇批評家としても幅広く健筆をふるう。『狂った果実』で武満の音楽にふれ、'65年、自らの個人誌「点」に原稿を依頼。以後、武満が死去する'96年まで親交を続けた。'88年、科学映画『副鼻腔の実験的細菌感染』(今回、参考上映あり。15分)を監督。加納光於がタイトルバックを担当、武満の「マージナリア」を音楽に使用した本作は、内外の科学技術映像祭で高い評価を得た。