●42丁目のワーニャ Vanya on 42nd Street 多才な劇映画作家としての印象が強いルイ・マルだが、デビュー作が『沈黙の世界』(クストーと共同監督)であるなど、フィルモグラフィーにはテレビなどのドキュメンタリー作品も含まれる。ニューヨークの42丁目にある、由緒正しいがすでに閉鎖された劇場で、ある劇の稽古を続けるグループにキャメラを向けたのがこの作品。彼の遺作にあたる長編ドキュメンタリーだ。建築からすでに100年が過ぎているという建物の古色蒼然たる雰囲気のなかで、彼らが新しい解釈で作り上げようとしているのは、チェーホフの有名戯曲『ワーニャ伯父さん』。結果的には、彼らの芝居は大好評につきロングラン上映されることになるのだが、ルイ・マルが描くのはそのリハーサル風景だ。ドキュメンタリー作品ながら、映し出される芝居そのものはフィクションであり、そこに現実と虚構が交錯する。100年前の戯曲が100年前の建物の中で全く新しい息を吹き込まれる。それは再生の瞬間かもしれない。119分。
【カラー】