ラース・フォン・トリアー 心の闇、奇跡の光


●エレメント・オブ・クライム The Element of Crime
 ラース・フォン・トリアー監督のデビュー作にして出世作。当館でロードショウから10年の歳月を経て久々の登場。ヨーロッパの退廃を背景に犯人捜しのフィルム・ノワールを再生させた本作品は、全編がセピアカラーで撮影されている。記憶を喪失しながら、犯罪者を追う主人公は、ある原理に基づいて行動している。それは、犯人の精神状況に自分を同一化していく危険な方法だ。記憶と思考は混濁し、観客が目にする風景もまた、シンメトリーといびつさが混在し、混乱の迷宮はその度合いを増す。104分。

●エピデミック Epidemic
 87年に製作されながら日本未公開だった幻の作品。トリアー自身が演じる映画監督は、脚本家ニルス・ヴァルセンと1年半に渡って脚本を作り上げてきた。ところが、コンピュータに入っているはずのデータがある日そっくり消えてしまっている。なぜだ! 脚本がない! どちらともなくつぶやくセリフは、「あの脚本は気に入らなかったんだ」。そしてふたりは、新たなタイトルを打ち込む。「Epidemic」。それは伝染病を意味する。世紀末への不安と期待が入り交じる姿が、ウイルスという形をとって現れる。106分。

●奇跡の海 Breakinng the Waves
 ゴシック・ホラー『キングダム』の次は、エキセントリックな完全純愛映画だ。北アイルランドの寒村を舞台に、神と対話する女が真実の愛を体現しながらも、厳しい人生に裏切られていく。周囲の反対を押し切って結婚した相手が事故で全身麻痺の重傷を負う。献身的に尽くす彼女だが、いつの間にか妄想と現実をさまようようになってしまった彼の、理不尽とも思える命令に悩むことになる。そして、そのことを受け入れてしまった時、彼女の周囲からの孤立は完全となる。しかし、奇跡は起きると彼女は信じているのだった。167分。



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