「浮き雲」 Drifting Clouds


 待ちに待ったアキ・カウリスマキの長編第12作。前作『愛しのタチアナ』から2年間に、もう映画は撮らないと噂され、同作品に至るまで重要なキャラクターを務めてきたマッティ・ペロンパーが身まかった。『真夜中の虹』、『マッチ工場の少女』、『コントラクト・キラー』で監督が光をあててきた不遇な人々を主人公に、新作では、目紛しく旧体制を打ち捨てる社会に翻弄しながら、最後のプロレタリアとして精一杯生きのびてゆく彼らを優しく包み、清々しい名作を築きあげた。主演のイロナは『マッチ……』のカティ・オウンティネン。ラウリは常連のカリ・ヴァーナネン。独特のカラーでフィンランドの閉塞感と、笑いや悲しみをミニアルに収めながら豊饒な再生へと結ぶ巧妙な撮影の担当は同じく常連スタッフのティモ・サルネン。
 ヘルシンキのさびれた名門レストラン“ドゥブロヴニク”。厨房では今晩もコックのいざこざが。だが皿洗いからたたきあげの給仕長イロナは冷静に店内をまとめてゆく。帰り道イロナは、夫ラウリが運転する市電に乗る。息子を失ってから、夫婦は一匹のみすぼらしい犬を飼い、慎ましく暮らしてきた。しかしラウリはリストラで突然失業。不運は一人連れを嫌うとばかりにイロナのレストランも大手チェーンに吸収され、従業員は解雇される。職探しが始まるが、中年夫婦は厳しい現実に突きあたるばかり。ある日かつての同僚もそれぞれ辛い日を送っていることを知ったイロナは自分たちのレストランを再開させる決意をする。
監督 アキ・カウリスマキ
撮影 ティモ・サルミネン
出演 カティ・オウティネン カリ・ヴァーナネン エリナ・サロ
1996年 96分

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