「悪魔のいけにえ」 The Texas Chainsaw Massacre


 ホラーというジャンルを越えて、観る者すべてに決定的な影響を与え続けてきた、史上最強のショッカー・ムービー。ヒッチコックの『サイコ』と同じく「エド・ゲイン事件」に想を得た猟奇連続殺人事件を、脚本・音楽にも名を連ね、シャープな演出で映像化したのは、後に『ポルターガイスト』などで「ホラー映画の帝王」の称号を欲しいままにする、当時弱冠27才だったトビー・フーパー。チェーンソーを振りかざす大男を筆頭に、強烈なキャラクターを全面展開する狂乱の一家と逃げまどう旅行者たちの、リアルな血の祝祭が容赦なく描かれる。全編に漂う不気味で陰惨な雰囲気は、絶妙なバランス感覚で配された細かいエピソードの積み重ねや、不安感を誘うノイズミュージック、さらにはグロテスクさが突き抜けて美しささえ感じさせる造型美の数々が重層的に生み出しているものだろう。俗にスプラッター・ムービーの元祖などと呼ばれるが、実際には血しぶきが飛び散るシーンは少なく、フーパー監督の卓越した演出が、観客に観てもいない恐怖を植えつけるのだ。近年とかく不調といわれるトビー・フーパーだが、たとえ卵のような宇宙人が空から降ってくるだの、人間の体が突然発火するだの、洗濯機が人間を喰らうだのといった、あきれたアイディアの作品しか撮っていないとしても、『悪魔のいけにえ』が映画史上に燦然と輝く金字塔であることには何の疑いもない。
監督 トビー・フーパー
出演 マリリン・バーンズ ジム・シードウ ガンナー・ハンセン
1974年 84分