唇によだれ L'eau a la Bouche


 ヌーヴェル・ヴァーグの運動の一翼を担った映画雑誌「カイエ・デュ・シネマ」の編集者だったジャック・ドニオル=ヴァルクローズの第1回監督作品であり、死してなおファンを増やし続けるセルジュ・ゲンスブールが初めて音楽を担当した映画作品でもあるこの作品は、その扇情的なタイトルから知名度が高いわりに、長らく上映の機会がなく、幻の傑作とささやかれてきた。すでにボリス・ヴィアンが才能を認めていたサンジェルマン・デ・プレの寵児ゲンスブールが、1960年のパリでヌーヴェル・ヴァーグの潮流と一瞬交錯した、唯一の貴重な作品とも言える。
 パリの郊外で広大な屋敷を相続した美しい娘ミレナ(フランソワーズ・ブリヨン)。莫大な財産をめぐり相続会議を開こうとするが、やってきたのは従姉妹とその恋人と好色な公証人。人違いとカン違いが事態をややこしく混乱させ、やたらに色気を振りまくメイドと彼女を何とかモノにしようとする召使いの思惑も絡んで、遺産分配そっちのけで、恋愛ゲームがはじまる。シネ・フィルらしい細部の知的な仕掛けや、スクリーンを彩るレコード・プレイヤーやファッションなどのエッセンスが、当時のパリのモードを感じさせる。メイド役のベルナデット・ラフォンはトリュフォーの『あこがれ』でデビューし、シャブロルの作品などで知られる、フランスの人気コメディエンヌである。

監督 ジャック・ドニオル=ヴァルクローズ
音楽 セルジュ・ゲンスブール、アラン・ゴラゲール
出演 ベルナデット・ラフォン、フランソワーズ・ブリヨン、ミシェル・ガラブリュ
1960年 87分


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