『ちんなねえ』公開記念 舞踏と映像の世界


●ちんなねえ
 高知県立美術館が、大木裕之監督の『HEAVEN-6-BOX』に続いて製作した、アート・ドキュメンタリー映画の第二弾。今回は、舞踏界の大御所・麿 赤兒と大駱駝艦のステージを、『夢見るように眠りたい』『我が人生最悪の時』の林 海象が記録し、前作同様ドキュメンタリーの枠におさまらない、文字通りの“ちんな”(高知の言葉で“奇妙な”)作品となった。
 基となった舞踏公演は、796年11月9日高知県立美術館能楽堂で行なわれた「トナリは何をする人ぞ」。同時期に美術館で開催されていた「絵金展 土佐の芝居絵と絵師金蔵」の関連企画である。絵金とは、血みどろで残酷な芝居絵屏風を描き、江戸末期に名をはせた土佐の絵師。彼の半生を映画化した『闇の中の魑魅魍魎』で主人公・絵金を演じていたのが、他ならぬ麿 赤兒だった。そんな因縁に導かれて実現した本公演は、麿が演じるシャーマンと、絵金はじめ坂本龍馬、マッカーサー、土方巽ら異界の住人たちとの出会いを描いた作品で、音楽は千野秀一、太鼓は大倉正之助が担当した。
 林監督は、約90分の舞台のエッセンスを30分に凝縮。そこに探偵(原田芳雄)や謎の美女、絵金(麿 赤兒)らが出没するフィクション部分を絡め、絵金の世界にさらに一歩踏みこんだ摩訶不思議な映像世界を構成している。

監督 林海象
出演 麿 赤兒 大駱駝艦 原田芳雄 ほか
撮影 長田勇市
音楽 千野秀一
編集 富田伸子
97年 43分


●馬頭記
 『どついたるねん』のボクシングジム会長役や、『部屋 THE ROOM』の初老の殺し屋役などで、映画ファンには異色の怪優として知られる麿 赤兒。しかし一度でも彼の舞台に接したなら、ダイナミズムとけれん、その中に垣間見える繊細で厳しい精神に、映画以上に彼の存在の凄さを感じ、心うたれるはずだ。'64年に土方巽に師事し、唐十郎の状況劇場にも参加した麿は、'72年に大駱駝艦を旗上げする。本作はその第二回公演を記録したもの。天児牛大、大須賀勇、故・田村哲郎ら、後に独立していく錚々たるメンバーが出演。

監督・撮影 鈴村靖爾
演出 麿 赤兒
出演 麿 赤兒 ビショップ山田 天児牛大 ほか
73年 59分


●陽物神譚
 第三回公演の記録。「馬頭記」のメンバーに加え、土方巽が客演しているのが見逃せない。原作は澁澤龍彦が'58年に発表した同名小説。

監督・撮影 鈴村靖爾
演出 麿 赤兒
出演 麿 赤兒 ビショップ山田 天児牛大 ほか
73年 60分


●闇の中の魑魅魍魎
 榎本滋民の「血みどろの絵金」を原作に、新藤兼人が脚色、鬼才・中平康が監督した、絵金伝。出演=麿 赤兒、岡田英次、加賀まりこ、土方巽。音楽=黛 敏郎。『ちんなねえ』をより楽しむためにも、一見をお薦めします。

監督・製作 中平康
原作 榎本滋民
脚色 新藤兼人
出演 麿 赤兒、岡田英次、加賀まりこ、土方巽
音楽 黛 敏郎
71年 107分