●炎上
三島由紀夫の「金閣寺」の映画化。金閣寺(映画では驟閣寺)に深い憧憬を示す学生僧(市川雷蔵)は、住職(中村鴈治郎)の俗物ぶりや寺の観光地に成り下がった姿に対し、次第に自己観念を増幅させていく。金閣寺の“絶対美”に対する“人間”の生々しい姿を鋭く描いた傑作。雷蔵初の現代劇。宮川一夫の白黒撮影は見事という他ない。他に中村玉緒出演。96分。
●からっ風野郎
裸の上半身に皮ジャンパーをまとってイキがる、うっ屈したヤクザ男の生態を、増村保造に徹底的にシゴかれながら三島由紀夫が見事に演じた問題作。三島に抱かれ妊娠する女に若尾文子。他に船越英二、志村喬出演。愛と暴力の96分。
●鍵
わいせつ性で問題になった谷崎潤一郎の同名小説の映画化。初老を迎えた地位ある男とその妻、さらにその娘と恋人の医師の4人の奇妙な関係が官能的に描かれる。市川崑の最も脂ののっていた時期の作品で、ブラックユーモアの切れ味も抜群。107分。
●盲獣
江戸川乱歩のマゾヒズム小説を白坂依志夫が脚色した異色作。男女を問わず人間の本性を強烈に暴き出してきた増村保造。この作品では、セット一つに三人の登場人物を配し、極限状況での倒錯した性の有様をアッと思わせる美術を用いて描く。84分。
●妻は告白する
増村=若尾コンビの代表作。夫と自分の愛人との三人で登山中、滑落事故が発生。夫と妻がロープに宙吊りに。下にいた夫のロープを妻が切り落としてしまう。円山雅也の「遭難・ある夫婦の場合」を原作に、日本的な束縛に絶えてきた女の他の男との情交を契機とする情念の爆発を、激越に描く。91分。
●満員電車
人間の溢れた日本。大学を卒業した茂呂井民雄は駱駝麦酒に入社。ある時、父から母が発狂したと連絡。しかし民雄の目の前に母が現れ父が発狂したと言う。会社に行けば神経を使い白髪に。市川流スラップ・スティック・コメディが炸裂。99分。
●女経
村松悄風の同名小説を元に、男を手玉に取る女が見せる“善”の本性を増村、市川、吉村公三郎監督が描くオムニバス。それぞれ、若尾文子、山本富士子、京マチ子と綺麗どころを揃え、三大監督が三大スターで三つの愛欲物語を華麗に魅せる。102分。
●足にさわった女
美人スリの京マチ子、スリ係の刑事ハナ肇、小説家の船越英二、女万引の杉村春子などがからみあって繰り広げられる増村にしては珍しい軽妙なタッチの喜劇。阿部豊、市川崑に次ぐ三度目の映画化で脚本は市川と和田夏十。86分。
●卍
弁護士の夫を持つ人妻が、若い女の魅力の虜となり同性愛に陥る。そこに女の恋人の青年が絡み夫を交えて奇妙な人間関係と倒錯したセックスの世界が描かれる。“恥も外聞もなく欲望を表現する狂人”たちが響宴する姿を増村は肯定的に力強く演出する。若尾、船越、岸田今日子、川津祐介競演。91分。
●「女の小箱」より夫が見た
大企業の課長を夫とする妻は淋しさからバーの経営者の男と結ばれるがその男は妻の夫の会社を乗っ取ろうとする策略家だった。うず巻く欲望と利害、ぎりぎり状態での暗いかけ引き。増村お得意のハイパー愛憎劇。93分。