『桜桃の味』アンコール


●桜桃の味 Taste of Cherry
 土ぼこりにまみれて走る一台のレンジローバー。運転する中年男バディは、頼みを聞いてくれる人を探している。彼は、助手席に乗せた男たちに次々と奇妙な仕事を依頼する。「明日の朝、私は、あの木の側の穴の中に横たわっている。外から私の名前を二度呼んで、返事をしたら助け起こしてほしい。もしも無言だったら穴に土をかけてくれ」。クルド人の若い兵士も、アフガニスタン人の神学生も、この願いを聞こうとせず車を降りていく。無理もない。バディの頼みは、自殺の手伝いをしてほしいということなのだから……。
 『友だちのうちはどこ?』『オリーブの林をぬけて』のアッバス・キアロスタミの最新作はこうして幕を開ける。彼が今回選んだ題材は " 自殺 "。しかし、自殺したい男の一日を描きながら、キアロスタミは、バディがなぜ死のうとするのか、その理由探しをするわけではない。彼の真のねらいは、生きる意味を問うことにある。なぜ生きないのか? その問いかけの率直さが見る者の心を強く捉え離さない。

監督 アッバス・キアロスタミ
出演 ホマユン・エルシャディ アブドルホセイン・バゲリ ほか
97年 98分