世界の始まりへの旅


●世界の始まりへの旅 Viagem ao Principio do Mundo  惜しまれつつ世を去った名優マルチェロ・マストロヤンニが最後に主演した作品。世界最高齢現役監督といわれる、ポルトガルの巨匠マノエル・デ・オリヴェイラが、ある俳優の体験をベースに自ら仕上げたシナリオを、ダニエル・シュミット作品で知られる名キャメラマン、レナート・ベルタの美しい映像で、故郷への哀惜とマストロヤンニへの哀悼の念をこめて静かな傑作に仕上げた。映画撮影隊の一行が、撮影休養日を利用して、俳優アフォンソの父祖の地を訪ねる。スペインとの国境近い寒村をドライブしながら、監督マノエル(マストロヤンニ)は、少年時代に過ごした日々を回想する。一方でアフォンソは故郷を捨てた父の思い出を語りながら、いまだ見ぬ故郷へと思いをはせる。甘さと切なさと厳しさが交錯する「郷愁の念」(ポルトガル語で「サウダーデ」という)が、彼らを「世界の始まり」の場所へと誘う。ただひとりの肉親の住む場所で、アフォンソは真実と向き合うことになるのだが・・・。かつてタルコフスキーが繰り返し描いた故郷への想いとは全く別種の感情サウダーデ。ポルトガル人特有といわれる、この故郷への特別な感情の揺れを、オリヴェイラは見事なまでに映像化している。

監督 脚本 マノエル・デ・オリヴェイラ
出演 マルチェロ・マストロヤンニ、ジャン=イブ・ゴーチェ、レオノール・シルヴェイラ、ディオゴ・ドリア、マノエル・デ・オリヴェイラ ほか
撮影 レナート・ベルタ
美術 マリア=ジョゼ・ブランコ
音楽 エマヌエル・ヌネス
編集 ヴァレリー・ロワズルー
97年 95分