A


● A
 阪神大震災と並んで、現代日本社会に激烈な衝撃をもたらした一連のオウム事件。オウム真理教の信者が関わったとされる、いわゆる「反社会的な凶悪事件」は松本サリン事件、地下鉄サリン事件ほか、空前絶後の規模と件数をもって知られ、その多くはいまだ裁判継続中である。その経緯は、テレビなどのメディアを通じて逐一われわれに伝えられてきたかのような印象がある。多数の死傷者を出した犯罪行為について、犯罪は犯罪として裁かれるのはもちろんのことだが、この一連の事件を巡って、われわれが得ている情報は、ているものだろうか?
 今更のように繰り返されるこの疑問が、改めて問い直されているのがこの『A』という作品だと言えるだろう。フリーのテレビディレクター森達也は、カメラを手に教団の施設を巡り、広報部長荒木浩を中心に、信者と直接対話しながら記録を続けた彼の立場は見るものに「オウム寄り」だと映るかもしれない。マスメディアの暴力的とも思える取材や警察権力の高圧的な態度に対して、信者の多くはただ不安そうな表情を浮かべる青年達に過ぎない。それはあたかも被害者のようだ。しかし、森は何かという問いを発しながら彼らに肉薄していく。なぜ、彼らはオウム信者であり続けるのか。それは微妙な問題への問い掛けから目を背けてきたわれわれにも向けられているのはいうまでもない。

監督 森達也
製作 安岡卓治
音楽 朴保
98年 135分