愛の破片 Boussieresd'amour


● 愛の破片 Boussieresd'amour
 『薔薇の王国』のヴェルナー・シュレーター監督久々の新作は、14歳でマリア・カラスの歌声を聞いた時の感動を今も忘れないファンとして、あるいは、79年にワーグナーの『ローエングリン』を初演出して以来20年近いキャリアを持つ演出家として、オペラへの造詣深い彼らしいドキュメンタリー風フィルム・エッセイ。パリ郊外の修道院に、多数のオペラ歌手が集められる。アニタ・チェルケッティのようにすでに引退した神話的スターもいれば、マルタ・メードルやリタ・ゴールのように今も現役で舞台に立つ歌手の姿も見られる。一人ひとりに向けられるカメラの視線に、シュレーターの並々ならぬ深い愛情と敬意がうかがえる。フランスを代表する映画女優、イザベル・ユペールやキャロル・ブーケも登場するが、彼女らはインタビュアーとしてもっぱら脇役に過ぎず、主役は歌声であることは間違いない。「愛と死」という壮大なテーマを巡り、彼女らが時に歌い、回想し、未来へと思いを馳せる姿が、シュレーター作品らしく耽美的な映像でつづられるが、難解さは影をひそめ、壮麗で甘美な歌声は圧倒的だ。「完璧な美」とうものがもしこの世に存在するとしたら、と思わせるほどに素晴らしい人間の声が見るものを至福の瞬間に誘う。

監督 ヴェルナー・シュレーター
出演 アニタ・チェルケッティ、マルタ・メードル、リタ・ゴール 他
撮影 エルフィ・ミケシュ
音楽監修/ピアノ エリザベット・クーバー
美術/衣装 アルベルト・バルザック
96年 122分。