内なる傷痕 La Cicatrice Interieure


●内なる傷痕 La Cicatrice Interieure
 極北の恋愛映画という触れ込みで登場した傑作、『愛の誕生』と『秘密の子供』のさらに遥か北を行く、壮絶な恋愛映画。見渡すかぎり殺伐とした砂漠にしゃがみ込むニコ。彼女の手をひきずるようにして、先に進ませようとしているのは監督であるガレル本人だ。罵るニコの叫びは砂漠の風に空しくかき消される。別の砂漠とおぼしき場所や雪原を同様にひとりさまようニコの前に、天使のような少年や聖者のような男(ピエール・クレマンティ)が立ち現れる。その度にニコの足は少し進み、そしてまた立ち止まる。どこに行くのかわからぬ道のりは、はるかに遠いようにもどこにも行き着かないようにも感じられる。度々カメラが指し示す、大きな円環の動きが彼女の行く末を象徴しているのかのようだ。砂漠や雪原といった、極限の場所を求めて海外ロケを繰り返しながら、ガレル自身が構成し、ニコがセリフを紡いだという製作過程が、そのままこの作品の愛の姿を特徴づけているのかもしれない。

監督 フィリップ・ガレル
出演 ニコ フィリップ・ガレル ピエール・クレマンティ 他
音楽 ニコ
70年 57分