『明日は月給日』


○川島雄三作品の自主上映、観賞は言うに及ばず、映画会社の協力を得て、マスター・ポジしか存在しない川島作品を、そのポジからネガを起こし、そして16mmフィルムでニュープリント化するという、川島ファンにとっては神様とも思える仕事をしているカワシマクラブ。当館ではその第1弾『還って来た男』('44年)から第10弾『こんな私じゃなかったに』('52年)までカワシマクラブNAGOYAの主催で上映し、川島の足跡を辿ってきた。これらの作品を見て、ひとつ感じたのは代表作と言われる『幕末太陽傳』や『洲崎パラダイス赤信号』などについてのイメージが全く沸いてこないこと。しかし最高傑作『貸間あり』を見ると初期作群とイメージ的に通じるものがある。単に『幕末〜』が良く出来すぎた映画だからなのか?
さてカワシマクラブ上映会、今回のお題は『明日は月給日』('52年)。原作は大衆雑誌「平凡」に連載された宮崎博史、北町一郎、鹿島孝二の三氏によるリレー小説で、八人の子供がいるまじめな経理課長が、給料遅配に敢然と立ち向かうサラリーマン喜劇。しかし、さすがリレー小説だけあって、無責任に登場人物が膨張し、ドラマの芯に絡んでくる人間が矢鱈に多い。大家族を嬉しがる両親、へそくりがバレひと騒ぎする長男夫婦、戦争未亡人の長女と亡夫の友人の新聞記者、大阪から喧嘩しながらやってくる次女夫婦、次男とその恋人である落語家の娘、主題歌を歌いまくるバイト成金の三男と喫茶店の娘、さらに落語家師弟等々、この雑然とした集団がそれぞれ一場の主役をつとめてしまうのだからすごい。が話のまとまりとなるとちと不安。しかし、川島の剛腕だか軟腕だか見当もつかない演出の手腕できっと川島ファンを楽しませてくれると思う。


【モノクロ】