グレン・グルード 天才ピアニストの愛と孤独
●グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独 Genius Within The Inner Life of Glenn Gould 1955年、デビュー盤「ゴルトベルク変奏曲」で型破りな演奏を披露、一大センセーションを巻き起こしたグレン・グールド(1932〜1982年)。その50年の生涯は、数々の伝説的エピソードに彩られている。自由奔放な行動と言動はクラシックの演奏家としては異色だったが、誰の真似でもない独自の生き方と音楽を貫いた類まれなアーティストとして、今も多くのファンの敬愛を受けている。
 この映画は、彼の足跡を辿りながら、華やかな名声の影で不安や苦悩をかかえながらも、音楽を愛し、人を愛したグールドの心の内にせまるドキュメンタリー。レナード・バーンスタインとの共演や、短編映画に出演した際のしゃれっ気たっぷりの名演技など見どころの多い記録映像と、親しかった友人たちへのインタビューから、1人の人間・グールドの実像が浮かび上がる。中でも、彼を愛した3人の女性たちの証言は、複雑な内面を持ちながら、人を惹きつけてやまなかった愛すべきグールドの肖像を描き出し、感動的だ。もっとグールドのことが知りたくなり、グールドを聴きたくなる、至上の108分。



─編集部は休憩中─
 『グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独』
      名古屋シネマテークスタッフ(H:平野 N:仁藤)

 早いもので2012年は、グレン・グールドの没後30年(生誕80年)の年になります。亡くなった後もライブや未発表の音源が発売され、今も人気は衰えません。グールド体験みたいなものはありますか?

 80年代後半に「ゴルトベルク変奏曲」をよく聴いてました。82年の再録音源の方が好きです。当時、カーステでも聴くほど。キーから生まれる一触、って言わないか(笑)、その一つひとつがまるで慈雨の水滴と化し車内に降り注ぎ、音楽を介して、さあ一緒に遊ぼうと語りかけられるような。そんなふうに聴いていました。たまたま同乗した知人たちからは「この音楽は一体、何なの?」とよく尋ねられて。こんなに有名なのに、さらに多くの人が感応してくる、まさにジャンルのアンセムです。

 バッハの「ゴルトベルク」は、グールドの代名詞ですね。1955年のデビュー盤と82年の再録音盤の比較がよく言われるんですが、私は、没後に陽の目を見た54年のラジオ放送用の演奏が印象深い。デビュー盤とわずかな月日しか離れていないのに、演奏がまるっきり違う!
 50年代のジャズは既にビバップがあり、モード奏法もフリージャズも手に入れる。演奏ごとに開放するヴァリエーション発想は、グールドにもあったんじゃない?

 なるほど。グールドが、クラシックにとどまらず、ロックやジャズを好きな人も惹きつけたのには、そういう理由があるのかもしれませんね。ただ、54年盤は、自然な流れや躍動感があるのに、デビュー盤はまるで頭で指を縛りつけたような演奏。その違いに、この人の一筋縄ではいかない人間性が表れているようにも思うんですが。

 その人間性は、本作で明らかに?

 まさに、この映画は、人間グールドに焦点を当てたドキュメンタリーでして…

 以前『グレン・グールド 27歳の記憶』という映画がありまして、若いグールドの凄艶な録音作業の記録が面白かったけれど、82年「ゴルトベルク」支持派としては、その後半生がどうだったのかも気になります。

 今度の映画は,グールドの生誕から死までを順に辿っていくんですが、後半生の描写は充実していますよ。中でも注目は、グールドが最も愛した女性と言われるコーネリア・フォスが自ら登場し,インタビューに答えていること。

 (スチール写真を鼻にあてて、)潮風の香りが…ラルフ・ローレンのCM写真ですか、これは! ジャクリーヌ・ケネディ風コートも、カトリーヌ・ドヌーブと見紛うゴールドの髪も。

 一緒に写っているグールドも、本当に幸福そう。でも彼女は、ルーカス・フォスというピアニストの奥さんで、結局は夫のもとに戻ってしまう。グールドとうまくいかなくなる過程も、率直に語られます。グールドは彼女とヨリを戻そうとするんですが、うまくいかず、また孤独になる…。

 グールドの録音を聴くと、レコードやラジオなどのメディアの出現で、人間は音楽というものとどこか孤独な状況で対面するようになったのだと実感する一方、「ゴルトベルク」を偶然クルマの中で聴いてしまった人からの感想を聞いたりもする。無限に共有されていくものでもあるわけです。その印象は、それこそがグールドの孤高の音楽とそのレコーディングってものなのだと、個人の中ではつながっていきます。

 ところで、今回、名古屋シネマテークでは『アンナ・マグダレーナ・バッハの日記』も再上映します。

 見れば見るほど、作品そのものの堅固な形式がほどけていくという、その親和性にいつも胸うたれる映画です。

 バッハ役はグスタフ・レオンハルト。ニコラウス・アーノンクールも出演していて、音楽的にもたいへん見応えがあります。

 夫バッハから書いてもらった練習曲をアンナ・マグダレーナが自宅で弾くシーン! バッハの熾烈で壮麗な教会音楽とは対照的に、一人でぽつんと音楽に向き合う。孤独だけど、喜びでもあるのだと感じました。

 当時は今のようにコンサートで音楽を弾く・聴くという形態はありませんでしたから、西洋音楽の在る場は、教会か、貴族の宴会か、あるいは徹底してプライヴェートかの、いずれかなんですね。でも、今の話は、先程のグールドの孤独ともつながってきます。現代の我々は、再生芸術として音楽に向き合うことで、アンナ・マグダレーナの孤独を新たに体験しなおしているのかもしれない。

 それは映画という表現にも通低していてほしいです。『グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独』も、グールドの形を更新する新しい映画として見たいと思います。




2011
10/29(土)
〜11/2(水)

12:30
16:10
18:30

11/3(木)
 &11/4(金)

12:30
16:10
18:30
20:25

11/5(土)
〜11/11(金)

12:30
16:20
18:30

 

前売券
※前売券販売は10/28(金)までです。
一 般 1400円
大学生 1400円
会 員 1200円
当日券
一 般 1700円
大学生 1500円
シニア 1000円
中高予 1200円
会 員 1300円

 
オフィシャルサイト

監督・編集 ミシェル・オゼ
監督・プロデューサー ピーター・レイモント
撮影 ウォルター・コルベット
出演 グレン・グールド、ジョン・ロバーツ、ウラディミール・アシュケナージ、コーネリア・フォス、ローン・トーク、ペトゥラ・クラーク、ケヴィン・バザーナ、ロクソラーナ・ロスラック、フランシス・バロー、ハイメ・ラレード、フレッド・シェリー 他

2009年 108分