恋の罪
●恋の罪 大ヒット作『冷たい熱帯魚』に次ぐ、園子温監督の実際の事件にモチーフを得て映画化した衝撃作。その事件とは、現在でも話題になっている、受刑者は本当は冤罪ではないかと問題の東京の電力会社OL殺害事件だ。
 激しい雨が降りしきる中その事件は始まる。ラブホテルで浮気相手とセックスに熱中する殺人課の刑事吉田和子38才(水野美紀)の携帯がけたたましく鳴る。殺人事件の発生だ。渋谷区円山町の廃墟と化した木造アパートで女性の死体が発見されたのだ。それもマネキンと部分的に接合された形で。ベストセラー作家を夫に持つ専業主婦菊池いずみ29才(神楽坂恵)はいつも来る日常に虚しさを感じている。そんな折、ひょんなことからモデルプロダクションにスカウトされるが、行った先はアダルトビデオの撮影現場。戸惑いながらも非日常を楽しむいずみの前にある日、売春婦尾沢美津子39才(冨樫真)が現れる。彼女の表の姿を知るとともに売春の世界にものめり込んでいくいずみなのだが……。
 日常では何の関係も持たなかった女達3人が女の性を接点として、微妙にそして重厚に絡み合っていく。その姿を園監督は、文字通り素っ裸にし独創的な女性観をマーラーの交響曲に合わせ紡ぎ込む。怒濤の144分をご堪能下さい。〈R18〉




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『恋の罪』解放の物語
   大島真寿美(小説家)


 近頃の園子温の映画はとにかく面白い。だから近頃の私は、園子温の新作だ、というだけで観なければならない、と思ってしまうわけなのである。観なければならない、というより、観逃してはならない、というべきか。彼の思考の暴走と、思考によって呼び覚まされる己の感覚を絶えず信じて押し切ってしまう潔さとそれが出来てしまう監督としての力量(強引なまでの力業か)と、流れていくフィルムに刻まれた、この人の勘の良さと、それからリズム感、音感の良さに酔い、多少のひっかかりや、不満はさておき、という、その“さておき”を許してしまう勢いに呑まれていく心地よさ。
 詐欺師にだまされていく時はこういうふうにつけ込まれていくものなのだろうか。
 そんなわけなので、二時間半はあっという間に過ぎていく。
 『恋の罪』もまったくあっという間の出来事だった。
 “恋の罪”=“Guilty of Romance”である。
 言っちゃあなんだが、そんなタイトルよくつけたよな、ってところである。そんなタイトルの映画を観た気は全然しない。だからもしかしたら、皮肉をきかせてつけたタイトルなのかもしれない。まあでも、こじつけて考えればいくらでも意味は取れる(ここがミソ)し、深読みもできる。“言葉なんか覚えるんじゃなかった”という田村隆一の詩もなんどもなんども使われていたし。そうなると言葉と意味について、嫌でも考えたくなってしまうではないか。
 とくに言葉と意味の罪について。
 おや? なんだかタイトルに似てきましたね。
 まあいいや。
 『恋の罪』は女たちの物語である。
 極端にカリカチュアライズして創造された女たち。どこから見ても嘘臭いったらない人物が、しかし、園子温の手にかかると、見事に自発呼吸を始めるから不思議でならない。どうしてそうなるのか、私にはわからない。これはもう、この監督の得意技といっていいだろう。
 そしてこの映画がなぜ女たちの物語なのかといえば、主演が神楽坂恵だからである。この女優の誕生を寿ぐために、この物語はとりあえず『恋の罪』という名の女たちの物語になった(のではないだろうか)。
 園子温はただひたすら、この一人の麗しい女をスクリーンの中に解放したにすぎないと私は思う。
 つまり、『恋の罪』は、解放の物語なのである。
 一人の女の解放の物語。
 しかしながら、それは、神楽坂恵がたまたま女だったからで、ここで語られた“一人の女の解放”は女に限定するまでもなく、いかなる抑圧によるのかはべつにして、男たちにも十分に共感できるものではないかと思われる。あるいはそもそも性別で分ける必要など、はなからなく、国籍であるとか、年齢であるとか、付け加えられた属性であるとか、家族であるとか、宗教であるとか、それはいくらでも考えられるのだろう。そして、それら様々な抑圧に言葉は深く関わる、言葉は付き物である、ということにも留意していなければならない。
 解放を促す役割を担っているはずのもう一人の女が、あれほどたくさんの挑発的な、もしくは扇情的な言葉を口にしていたわりに、まったく解放からは程遠い存在であり、それゆえ、彼女には陰惨な解放しかもたらされないという、グロテスクな内容をこの映画は孕みつつ、そのくせ、この映画に清々しさを記憶するのは、ひとえに神楽坂恵が解放され、愛らしいまでに輝く瞬間を確かに目撃したと思うからではないだろうか。窮屈な場所から広い場所へと出た時。縛っていたものがほどけた時。日々の小さな解放でさえ、どれほど気持ちよかったか、その快感についてまざまざと思い出さずにはいられない。
 ところでこの作品は、実際の事件(東電OL殺人事件)を材に取ったとされる虚構作品ではあるけれども、そういった作品が陥りやすい、作者の解説や分析を開陳されただけ、というような、作品と呼ぶことさえ疑いたくなるような、ようするに、こちら側の想像の範囲内に安全に落ち着くものではまったくなく、作家とはほんの小さな針のひとつきの刺激を受けただけで、ひとつの個人的(且つ普遍的)虚構世界を作り上げる変人(狂人)である、ということもまた証明してみせたように思う。




2011
11/12(土)
〜11/25(金)

11:00
13:40
16:20
19:00

11/26(土)
〜12/2(金)

11:00
13:40

12/3(土)
〜12/9(金)

15:30

12/10(土)
〜12/16(金)

19:40

12/17(土)
〜12/20(火)

15:30




前売券
※前売券販売は11/11(金)までです。
一 般 1500円
大学生 1500円
会 員 1200円
当日券
一 般 1700円
大学生 1500円
シニア 1000円
中高予 1200円
会 員 1300円

 
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監督・脚本: 園子温
主演 水野美紀、冨樫真、神楽坂恵、児嶋一哉、二階堂智、小林竜樹、五辻真吾、深水元基、町田マリー、岩松了、大方斐紗子、津田寛治 他

2011年 144分