●オジー降臨 God Bless Ozzy Osbourne ヘヴィ・メタルのカリスマ、オジー・オズボーン。ブラック・サバスのフロントとして、ジャンルを確立して名声を得るも、アルコールと薬物の過剰摂取と数々の奇行(コウモリを頭からかじる?)で身を持ち崩し、MTVのリアリティ番組「オズボーンズ」では一家そろって嘲笑の的。この暗黒のプリンスの半生を追うのが『オジー降臨』だ。イギリスのワーキングクラスの不良少年が如何にして音楽と出会ったか? 悪行の数々は真実か? そして、彼の一家は本当に嘲りを受けるような日々を送っているのか? ブラック・サバスの面々やポール・マッカートニー、前妻との間の子供たち、モトリー・クルーやメタリカのメンバーが、オジーの実像を語る。ライヴシーンや記録映像も雄弁だ。ごく最近のツアーでは楽屋に設置されたカメラが知られざる彼の姿も捉える。歪曲も正当化も美化もされないまま、彷徨の果てに現在にたどり着き、孤独な戦いを続けるミュージシャンの姿が浮かびあがる。94分。 無力な存在を超えることは。 ─空族作品特集上映のために─ 永吉直之(スタッフ) 新しいヒーローは彗星のごとく登場することになっていて、それは私たちの前に「唐突に」現れるらしい。郷愁を意味する『サウダーヂ』というポルトガル語を冠した作品もまた、そのような映画として捉えられているようだし、ある程度やむをえないことかもしれないが、その作品を生み出した映像制作集団空族もまた同様だ。若者がトラック運転手をして貯めた金で仲間と一緒に作り上げた、甲府の現状を背景にした地方都市発の映画。まあ、悪くないモノガタリだし、概ねウソでもない、と思う。事実としてウソでもないが、イメージ以上のモノでもない。富田克也も空族も、ミュータント的に、今、突然に、生まれいでたわけではないのだから。 2004年ぴあフィルムフェスティバル。その年のPFFはテオ・アンゲロプロスの初期作を含むレトロスペクティヴを企画したこと(東京会場のみ)と、『ある朝スウプは』と『さよなら さようなら』の高橋泉と廣末哲万の群青いろを発見したことで記憶されるのだが、その会場に無造作に置かれたチラシの中に、空族の『雲の上』と『かたびら街』の宣伝チラシがあった。モノクロームに赤い文字、だったと思う。チンピラ風の態度の悪い男ふたりが突っ立った写真の『雲の上』と、何台かのバイクが並んで駐められた写真の『かたびら街』。そのレイアウトのインパクトは強烈で、見開きの内側には、作品のストーリーと、いくつかのコメントが寄せられていた。忘れ難いのは矢崎仁司監督のコメントだ。それは、とても長い長いコメントだった。要約すると、こんな感じだ。 「天国では死んだ映画監督たちが焚き火を囲んで話をしている。そこでは自分が尊敬する映画監督たちが、楽しく映画の話をしているが、自分はまだ、その輪に入れてもらえるほどの作品を撮っていない。でも、富田克也は『雲の上』を作ったことで、もう入れてもらえる。」 先輩監督たちへの敬意に満ち、焚き火の美しさとともに中上健次の横顔にも触れる、矢崎監督の素敵なコメントは、空族の公式サイトから今も辿ることができるのだが、まだ作品を観ていない時点で、これはいくら何でも褒めすぎなんじゃあないかと、実は思った。思ったが、そこまで書かれては観ないわけにもいかない。名古屋シネマテークと空族の最初の接点だ。そして、驚愕した。荒れた8ミリフィルムの映像が滲む汗をすべて写しとるような空気感を伝え、高いテンションが持続する素晴らしい映画。言葉を失うほどの、あるいは極度に饒舌にさせるほどの、素晴らしい映画。 彼らは、そのときすでに毎月一回ずつ作品を上映し、その都度様々なゲストを招いたイベントを東京の小さなスペースで行っていた。あまり大きく話題にはならなかったが、地道に、粘り強く。富田監督自身が一期生として在籍していたことから出品資格があった映画美学校映画祭でスカラシップを獲得(審査員だった篠崎誠監督の強力な推薦があったと、後に聞いた)して、その資金が『国道20号線』の製作につながったのも、2004年のことだ。その年の当館の「自主製作映画フェスティバル」で『雲の上』は上映されている。残念ながら、その時の観客は片手で数えられるほどで、中には熱烈に支持してくれる方もいたことはいたが、注目されるにはほど遠く、『かたびら街』に至っては、「何でも持って来い!」に急遽組み入れたので、深夜に一度だけの上映。もっとも、あの時点でご覧になった方々が、幸運だったのは間違いない。 少し風向きが変わったのは、『国道20号線』を16ミリフィルムで仕上げてからだ。 スカラシップ獲得から3年の歳月をかけて、さらに彼らの棲む世界への傾斜を深めた作品を作る過程で、恐らく、空族という集団もまた、より強くなっていったのだと思う。作品があまり話題にならないままに集団を続けるのは難しい。しかも、彼らは、それが社会に開かれた状態を維持しながら戦い続けてきた。当館での『国道20号線』の上映は、『ヴァンダの部屋』などペドロ・コスタ監督特集と相前後して行われ、両方をご覧になった観客のおひとりが「『ヴァンダの部屋』が甲府にあるとは!」と嘆じていたのは生々しい記憶として残っている。その生々しさは、どちらの映画にも共通した感触だ。あの時点で、空族作品は同時代の世界の映画の流れの中に、すでに当たり前のように位置していたのだと思う。 ロカルノやナントでの国際的な高評価にも触れなければならないが紙数が尽きた。単独では無力な映画が、なにがしかの力を持つこと、その意味、集団のあり方などなど、社会と切り結ぶ術を示唆する上でも、空族の作品を通して考えられることはいくらでもある。まずは、彼らの作品を。 |
2012 2/11(土) 〜2/17(金)
前売券 ※前売券販売は2/10(金)までです。 一 般 1400円 大学生 1400円 会 員 1200円 当日券 一 般 1700円 大学生 1500円 シニア 1000円 中高予 1200円 会 員 1300円 |
監督 マイク・フレイス、マイク・ピシテリ
製作・企画 ジャック・オズボーン
音楽 ブラック・サバス、オジー・オズボーン
出演 オジー・オズボーン、トニー・アイオミ、ギーザー・バトラー、ビル・ワード、ポール・マッカートニー、エイミー・オズボーン、ケリー・オズボーン、ルイ・オズボーン、ポール・オズボーン、ザック・ワイルド、ランディ・ローズ、トミー・リー、ジョン・フルシアンテ、ロバート・トゥルージロ、ヘンリー・ロリンズ、ルディ・サーゾ 他
2011年 94分