『サウダーヂ』
 凱旋特集〈空族 kuzoku〉

 ○話題沸騰の映像制作集団、空族。ロカルノ映画祭正式出品、ナント三大陸映画祭ではグランプリ「金の気球賞」を受賞した最新作『サウダーヂ』が、いよいよ名古屋初公開。空族の全貌もお届けします。
●サウダーヂ 中心部の空洞化と不況に喘ぐ、典型的な地方都市甲府。土方として暮らす精司と、HIPHOPで名を挙げるつもりの猛。彼らを支える世界は文字通り、解体寸前だ。土方の仕事は激減し、仕事にあぶれたブラジル人やタイ人のホステスは国に帰るかどうかの決断を迫られ、精司の妻は怪しげな飲料水や代議士候補に入れ込む。崩壊家庭を抱える猛は、根拠もないままにナショナリズムに傾倒し……。167分。
●国道20号線 パチンコ屋、ファミレス、サラ金、ドンキ……。日本全国の国道沿いで見られる風景だ。暴走族あがりのヒサシは、未だにシンナーに溺れ、同棲相手のジュンコと、パチンコ通いのその日暮らしだ。借金だけがかさんでいく。そんな彼に、闇金屋の小沢がうまい話を持ちかける。77分。
●FURUSATO 2009 『サウダーヂ』を準備する過程で、空族が立ち会った時間そのものが記録され、甲府の日常が淡々と綴られる。黙々と続く土木作業、在日ブラジル人コミュニティ、夜更けのシャッター商店街に響くHIPHOP。『サウダーヂ』が生み出されようとしているエネルギーが胎動する、希有なドキュメンタリー映像。50分。
●雲の上 蛇が龍に化身するとの言い伝えを持つ寺院、紅雲院。跡取り息子のチケンが、刑務所での務めを終え、帰ってきた。修行して寺を継ぐ覚悟をしているチケンだが、故郷は彼の不在の間に雰囲気を変えていた。幼なじみのシラスはヤクザになりきれず、足を洗いたがっている。彼を助けようとするチケンだが……。140分。
●かたびら街 暴走族の仲間として肩で風を切っていた4人。いつしか時がたち、今も、チンピラの小競り合いを繰り返す者、サラリーマンとして生きる者、それぞれが別の人生を歩む。過ぎていく時間は誰をも等しく押し流す。青春の終わり、という言葉を呟かざるをえない、哀切な50分。
●花物語バビロン 90年代半ば、浮かれた世情を反映してか、多くの若者が世界へと旅立った。その中の誰かが体験したかもしれない物語。タイのバンコクで夢と現実の狭間の旅が始まり、いつしかそれは、少数民族モン族の現実へと滑り込む。強烈なケシの香りをまといながら。35分。



2月18日 18:30の回 初日舞台挨拶
富田克也監督、共同脚本の相澤虎之助さん、出演の田我流さんの来館が決定!



無力な存在を超えることは。
  ─空族作品特集上映のために─

永吉直之(スタッフ)

 新しいヒーローは彗星のごとく登場することになっていて、それは私たちの前に「唐突に」現れるらしい。郷愁を意味する『サウダーヂ』というポルトガル語を冠した作品もまた、そのような映画として捉えられているようだし、ある程度やむをえないことかもしれないが、その作品を生み出した映像制作集団空族もまた同様だ。若者がトラック運転手をして貯めた金で仲間と一緒に作り上げた、甲府の現状を背景にした地方都市発の映画。まあ、悪くないモノガタリだし、概ねウソでもない、と思う。事実としてウソでもないが、イメージ以上のモノでもない。富田克也も空族も、ミュータント的に、今、突然に、生まれいでたわけではないのだから。
 2004年ぴあフィルムフェスティバル。その年のPFFはテオ・アンゲロプロスの初期作を含むレトロスペクティヴを企画したこと(東京会場のみ)と、『ある朝スウプは』と『さよなら さようなら』の高橋泉と廣末哲万の群青いろを発見したことで記憶されるのだが、その会場に無造作に置かれたチラシの中に、空族の『雲の上』と『かたびら街』の宣伝チラシがあった。モノクロームに赤い文字、だったと思う。チンピラ風の態度の悪い男ふたりが突っ立った写真の『雲の上』と、何台かのバイクが並んで駐められた写真の『かたびら街』。そのレイアウトのインパクトは強烈で、見開きの内側には、作品のストーリーと、いくつかのコメントが寄せられていた。忘れ難いのは矢崎仁司監督のコメントだ。それは、とても長い長いコメントだった。要約すると、こんな感じだ。
 「天国では死んだ映画監督たちが焚き火を囲んで話をしている。そこでは自分が尊敬する映画監督たちが、楽しく映画の話をしているが、自分はまだ、その輪に入れてもらえるほどの作品を撮っていない。でも、富田克也は『雲の上』を作ったことで、もう入れてもらえる。」
 先輩監督たちへの敬意に満ち、焚き火の美しさとともに中上健次の横顔にも触れる、矢崎監督の素敵なコメントは、空族の公式サイトから今も辿ることができるのだが、まだ作品を観ていない時点で、これはいくら何でも褒めすぎなんじゃあないかと、実は思った。思ったが、そこまで書かれては観ないわけにもいかない。名古屋シネマテークと空族の最初の接点だ。そして、驚愕した。荒れた8ミリフィルムの映像が滲む汗をすべて写しとるような空気感を伝え、高いテンションが持続する素晴らしい映画。言葉を失うほどの、あるいは極度に饒舌にさせるほどの、素晴らしい映画。
 彼らは、そのときすでに毎月一回ずつ作品を上映し、その都度様々なゲストを招いたイベントを東京の小さなスペースで行っていた。あまり大きく話題にはならなかったが、地道に、粘り強く。富田監督自身が一期生として在籍していたことから出品資格があった映画美学校映画祭でスカラシップを獲得(審査員だった篠崎誠監督の強力な推薦があったと、後に聞いた)して、その資金が『国道20号線』の製作につながったのも、2004年のことだ。その年の当館の「自主製作映画フェスティバル」で『雲の上』は上映されている。残念ながら、その時の観客は片手で数えられるほどで、中には熱烈に支持してくれる方もいたことはいたが、注目されるにはほど遠く、『かたびら街』に至っては、「何でも持って来い!」に急遽組み入れたので、深夜に一度だけの上映。もっとも、あの時点でご覧になった方々が、幸運だったのは間違いない。
 少し風向きが変わったのは、『国道20号線』を16ミリフィルムで仕上げてからだ。 スカラシップ獲得から3年の歳月をかけて、さらに彼らの棲む世界への傾斜を深めた作品を作る過程で、恐らく、空族という集団もまた、より強くなっていったのだと思う。作品があまり話題にならないままに集団を続けるのは難しい。しかも、彼らは、それが社会に開かれた状態を維持しながら戦い続けてきた。当館での『国道20号線』の上映は、『ヴァンダの部屋』などペドロ・コスタ監督特集と相前後して行われ、両方をご覧になった観客のおひとりが「『ヴァンダの部屋』が甲府にあるとは!」と嘆じていたのは生々しい記憶として残っている。その生々しさは、どちらの映画にも共通した感触だ。あの時点で、空族作品は同時代の世界の映画の流れの中に、すでに当たり前のように位置していたのだと思う。
 ロカルノやナントでの国際的な高評価にも触れなければならないが紙数が尽きた。単独では無力な映画が、なにがしかの力を持つこと、その意味、集団のあり方などなど、社会と切り結ぶ術を示唆する上でも、空族の作品を通して考えられることはいくらでもある。まずは、彼らの作品を。






2012
2/18 雲の上 サウダーヂ かたびら… サウダーヂ
11:00 13:40 16:50 18:30
2/19 サウダーヂ 国道 サウダーヂ FURUSATO サウダーヂ
10:30 13:30 15:00 18:00 19:00
2/20
&24
サウダーヂ サウダーヂ サウダーヂ 国道
11:30 14:30 17:30 20:30
2/21 サウダーヂ サウダーヂ サウダーヂ 雲の上
10:30 13:30 16:30 19:30
2/22 サウダーヂ サウダーヂ サウダーヂ かたびら…
11:30 14:30 17:30 20:40
2/23 サウダーヂ サウダーヂ FURUSATO サウダーヂ
11:30 14:30 17:30 18:40
2/25
〜3/2
サウダーヂ
12:20

『サウダージ』
前売券(2月17日まで販売)
一 般 1400円
大学生 1400円
会 員 1200円
当日券
一 般 1700円
大学生 1500円
シニア 1000円
中高予 1200円
会 員 1300円

  『サウダーヂ』以外の作品
当日券のみ
一般 1300円
学生・会員 1200円
※『サウダーヂ』の半券ご呈示の方は上記当日料金から200円割り引きます。
オフィシャルサイト