瞳は静かに
●瞳は静かに Andres no quiere dormir la siesta 原題の「アンドレスはお昼寝なんてしたくない」にはアルゼンチンの軍事政権(1976〜82)時代、地域コミュニティぐるみの反体制派摘発によって、史実に埋もれてしまった人々の心情が秘められている。
 1978年、洲都サンタ・フェに暮らす8歳のアンドレス(コンラッド・バレンスエラ)は、唄が好きで愛情深いシングルマザーの母を突然失い、兄と一緒に、実父と祖母オルガ(アカデミー賞受賞作『オフィシャル・ストーリー』主演、ノルマ・アレアンドロ)の家にひきとられる。一年が過ぎ、思想も生き方も自由な母とは異なる祖母にとまどいながらも規律ある生活を受け入れたアンドレスだが、大人たちの秘密を覗き聞くうち、祖母が「レディ」と畏れられる地域の重要人物だと知る……。主人公アンドレスと同世代のブスタマンテ監督が、マテ茶と日々の献立のかおりが漂う平穏なキッチンからみた視点で、沈黙と不安に閉ざされた当時の市民社会が子供たちに与えた影響を描き出す秀作。108分。




『瞳は静かに』
映画は気ままにふらりと観たい
    比嘉世津子(Action Inc.)

 いつからだろうか。映画の感想の中に「分からない」という言葉がでてくるようになったのは……。以前は、観た直後は、「よかった」とか「う〜ん」と沈黙するぐらい、で、そのあと、友人たちと話しながら、又は独りで、ゆっくり咀嚼していた気がする。1本の映画のことを話しながら相当、酒が飲めた。だが、最近では、友人との語らいよりも、ネット上のソーシャルメディア、特にツイッターで映画の感想を言い合う人が増えて来た。(映画のつぶやきを集めるサイトまである)140文字以内で気軽につぶやけるツイッターには、「今夜のおかずは、餃子にしよう」と同じように「映画観たけど、分かんなかった」といった言葉が時折出て来る。一体、何が分からないんだろ、と思っていると、少し前、かのテレンス・マリック監督作品『ツリー・オブ・ライフ』公開直後に、「分からない」という感想のオンパレードになった。曰く、「なんで宇宙が出て来るのか分からない」「何が言いたいのか分からない」「俺の頭では分からない」と。昔なら「いや、あなた、そこをあとでゆっくり考えるのが映画の面白さじゃありませんか」と言う映画好きがいただろうが、今では評論家が「私が謎解きいたしましょう」と言う。あれは「謎」なのか? ヨブ記を知らなきゃ楽しめないのか?(予習して行った人もいた!)すぐに解釈しなきゃイカンのか?
 観た時に「?」と思ったことが心に残って、いつか人生の中で「!」に変わる時がくるかもしれないのに……。なんだか勿体ないなあ、と思っていると「パルムドール取った作品に面と向かって『つまんない』と言うと無知に思われるから『分からない』と言う人が多い」といった内容のコメント。何と息苦しい世の中、人からどう思われようと、もっと気軽に観ちゃいかんのか、映画〜! と思った。
 私は性格がひねくれているので、映画には、ある種の裏切りを期待する。予告編や宣伝から想像した域を出ない作品だと、肩すかしをくらった気になる。だから、おのずと驚かせてくれる映画を選んでしまうのだが、今回、名古屋シネマテークで3月末から上映されるアルゼンチン映画『瞳は静かに』も、ラストシーンについて、上映後、見知らぬ観客から「なぜ?」と詰め寄られたことがあった。
 この出来事は、ちょっとした衝撃だった。私は、それまで、分かりやすさが求められるのは、みなが受け身だからだと思っていた。説明過多な映画に慣れてしまって、自ら考えることをやめてしまったのだ、と。それが全くの逆、みなストーリーを、内容をすべて理解しようと、前のめりになって映画を観ていることに気づいたのだ。だから、ストーリーが追えなくなったり、想像の範囲を越えたりすると不安になって、何か解釈を求めたくなるのかもしれない。
 特にラテンアメリカ映画は、「社会背景を知らないから」と言われることが多い。今回も「アルゼンチンの軍事政権のことを知っていたら、もっと分かったのに」と言う人がいたが、何をもっと分かったのか、が良く分からなかった。ストーリーと解説は、パンフを立ち読みしていただいても良い訳だが、(ご購入いただければ嬉しいが)基本的に監督が触れない部分は書かないのが私の信条だ。なぜなら、そこは、監督が観た人に自由に感じてほしいと思っているところだから。
 『瞳は静かに』は、子どもの視点から描いた、家族の物語であり、軍事政権は、あくまで背景にすぎない。当時、10歳だったダニエル・ブスタマンテ監督は、何が起こっているか分からなかったけれど、大人たちの内に不安があることは子どもにも分かった、と言う。「子どもは口を出すな」と言われるので、親にも何も聞けない。それは放射能や地震の恐怖を抱える今の日本の状況にとてもよく似ている。私たちが、この先、どこへ行くのか、どうなるのか全く分かっていない。そんな中で子どもたちは、何を見て、何を考え、思うのか。
 今回は、軍事政権のことなど関係なく、ゆったり構えて、観ていただければ幸いだ。そして、観た後に、ぜひ、パンフで名古屋出身の七里圭監督の映画評をお読みいただきたい。アルゼンチンのことを知らない監督が、何を感じたか。前知識や情報なんぞ関係ないことが分かるだろう。何てったって、映画は、気楽に観ることから始まるのだから。



催しのご紹介
「マテ茶とアルゼンチン音楽の会」は、本格マテ茶とアルゼンチン菓子を頂きながら、のんびりアルゼンチン音楽や映像・文化を楽しんでいただくイベントです。
手作りのアルゼンチンのママの味アルファホールというお菓子やボノボンがマテ茶との相性もぴったりです。

PaPiTa MuSiCa 2012
音楽&トークイベント vol.2
「マテ茶とアルゼンチン音楽を楽しむ会」

日時:3/20(火・祝)15:00〜16:30
場所:Cafe Dufi (名古屋市中区新栄3-17-11)
JR/地下鉄東山線・千種駅下車徒歩10分位
会費:680円【マテ茶+お菓子付き】
※貸切イベントではないので、Cafe Dufiで通常オーダーも可能です。

予約:PaPiTa MuSiCa タニィ 谷本雅世
Email: papitamusica@gmail.com
tel/fax:052-771-2167(Nishimura)

マテ茶の会詳細とチラシをURLで見る↓
http://bsas.blog115.fc2.com/blog-entry-1272.html





2012
3/31(土)
〜4/6(金)

18:30

4/7(土)
〜4/13(金)

10:30

 

前売券
※前売券販売は3/30(金)までです。
一 般 1400円
大学生 1400円
会 員 1200円
当日券
一 般 1700円
大学生 1500円
シニア 1000円
中高予 1200円
会 員 1300円

 
オフィシャルサイト

監督・脚本 ダニエル・ブスタマンテ
撮影 セバスティアン・ギャロ
音楽 フェデリコ・サルセード
製作 カロリーナ・アルバレス
出演 ノルマ・アレアンドロ、コンラッド・バレンスエラ、ファビオ・アステ、セリーナ・フォント 他

2009年 108分