孤独なツバメたち〜デカセギの子どもに生まれて〜
●孤独なツバメたち〜デカセギの子どもに生まれて〜 浜松近郊で暮らす多くの日系ブラジル人。好況に沸いた90年代に工場労働のためにデカセギにやってきた彼らは、この地で働き、家族を作った。中には故国ブラジルを知らないままに育った子供たちも少なくない。本作は、そういった少年少女4人にフォーカスするドキュメンタリー作品だ。2008年からの不況は、彼らの生活にも大きな影を落とす。職を失う者、ブラジルに帰ることを余儀なくされる者。長く彼らに密着するカメラは、その現実の厳しさを直視する。地元で日系ブラジル人の若者の調査と支援をする浜松学院大学教授の津村公博と、京都を舞台にした瑞々しい青春映画『ハリヨの夏』の中村真夕が共同監督。88分。



初日10/6(土) 津村監督、中村監督 舞台挨拶決定です! 

10/7(日)は、ポルトガル語、日本語共通字幕版で上映します。



孤独なツバメたち
 〜デカセギの子どもに生まれて
     津村公博(浜松学院大学教授)

 「孤独なツバメたち─デカセギの子どもに生まれて」は、デカセギの子どもたちの青春を描いたドキュメンタリー映画である。1990年以降、南米に渡った日本人の子孫が労働力不足の解消の策として、自動車・輸送機器関連の企業が集積している愛知県、静岡県の東海地域を中心に、工場労働者として来日した。
 30代、40代の働き盛りのデカセギ日系人は、幼い子どもたちを母国に残して置くこともできず、日本に連れて来ざるを得なかった。デカセギの子どもとたちの多くは日本の公立学校に入学し、学齢期のほとんどの時期を日本で過ごしていくことになった。彼らは、デカセギの子どもたちとして様々な“別れ”を経験していくことになる。
恋人との別れ……デカセギの子どもは、幼い時に来日した子どもばかりではない。日本で生まれ育ったパウラ(15歳)は、突然父親から、見たこともないブラジルへの帰国を告げられた。12歳から単身で東京に出てモデルをしていたが、東京と浜松との二重生活が両立せず、夢をあきらめ工場で組み立ての仕事をしていた。帰国の話は、再びモデルの仕事の依頼が来た時だった。私生活においても恋人との出会いがあり、将来に明るい兆しが見えた矢先であった。突然の帰国の話に、彼女は混乱し泣き崩れた。帰国を拒否して、日本に1人で残ると抵抗した。しかし、長い抵抗の後に、最終的に家族の考えに従った。日本での生活は、家族全員が働いていて家族全員で食卓を囲むことはなかった。帰国後にブラジルで起業したいという父親の夢に、「これ以上、家族がバラバラになりたくない」と恋人と自分の夢との決別を受け入れた。ブラジルに帰国後、彼女の挑戦が始まった。
友人との別れ……デカセギの子どもたちのブレイク・ダンスの伝説的なユニットがある。フロアー・モンスターズである。デカセギの子どもたちが、自らの居場所を求めて、深夜静岡県の掛川駅の構内の狭い通路に人の行き来が無くなった後に集まった。
 彼らは、B-boyとして「ダンスのスキルを上げていく」という共通の目的を見出し、互いに競い合い、支え合った。しかし、フロアー・モンスターズは10年前に結成以来、常に解散の危機を抱えていた。デカセギの彼らの親は、1円でも高い時給を求めて、国内での移動を繰り返すためだ。彼らは、常にメンバーがユニットを去ることを覚悟していた。
 そして、2008年の経済不況は彼らの絆を完全に分断した。フロアー・モンスターズのリーダーが帰国することになり、メンバーは散り散りになった。彼らは、いつかどこかで再会することを願いながらも、独自の道を模索する生活が始まった。
父と会わなければ……「帰国して父と向き合いたい」─鈴木ユリ(20歳)は親友が運転するギャングスタ仕様の車の後部座席から外の景色を見ながらつぶやいた。右まぶたには「money」、左まぶたには「$」のイレズミ、そして右手の甲に入れている「hustler」の文字はギャングスタであることの証だ。彼は、シズオカ・ラティーノ・ギャング(SLG: Shizuoka Latino Gang)を作ったが、「悪いことをしたかったわけではない。リスペクトが欲しかった」と述べる。彼は車上荒らしで、1500万円を荒稼ぎした。しかし、そのような生活は長く続かない。間もなく、車上荒らしのグループ全員が捕まった。少年審判で保護者が子どもを家庭で矯正させるとの決意と熱意を裁判官に訴えれば、少年院送致を逃れ、保護観察処分を受けることもできる。しかし、彼の父は、少年審判に姿を現さないばかりか、彼を見捨てて帰国してしまった。彼は、父親に見捨てられたと感じた。1年以上も中等少年院に送致されて退院した時に、帰国を決意した。自分の人生をやり直そうと決意した時に、これまでの父ともう一度向き合う必要を感じたからだ。
日本の若者に……デカセギの子どもは、母国と日本との移動や国内での移動を繰り返し、転校する度に直面する様々な“別れ”を運命として受け入れてきた。自ら自分の生活を変えることはできないデカセギの子どもは、「あきらめ」と「がまん」が身にしみついている。しかし、恋人や友人との別れの際で、「FELICIDADE!(フェリシダージ:しあわせに)」と思いっきりの笑顔を見せる。
 どんなに悲しくて苦しくても、明るさと希望を忘れない。
 この映画は、同年代の日本の若者に見て欲しい。逆境の中で、明るくたくましく生きるデカセギの子どもの姿を通して、生きるすばらしさを感じて欲しい。




2012
10/6(土)
〜10/12(金)

10:30

 

前売券
※前売券販売は10/5(金)までです。
一 般 1200円
大学生 1200円
会 員 1200円
当日券
一 般 1500円
大学生 1400円
シニア 1000円
中高予 1200円
会 員 1200円

オフィシャルサイト

監督・プロデューサー・撮影 津村公博
監督・撮影・編集 中村真夕
撮影 村井隆太、木村伸哉、佐藤アユミ・パウラ
出演 佐竹エドアルド、鈴木ユリ、佐藤アユミ・パウラ、松村エドアルド、カルピノ・オタビオ 他

2011年 88分