●石巻市立湊小学校避難所 東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県第二の都市、石巻市。本作は、その街で避難所の一つとなった市立湊小学校の、2011年4月から10月11日(避難所閉鎖の日)までを追ったドキュメンタリー。 ここには、日々多くのボランティアが来訪し、支援物資が届く。しかし、そのすべてが被災者の心に届くとは限らない。映画は、彼らの本音を聞き取り、心のうちに迫っていく。また山積みとなった数々の問題。それから逃れるため、避難所からさらに避難していく人々もいる。その一方で、ここでは普段は出会うことのなかった新たな出会いが育まれている。新しい大きな家族、それが、傷ついた彼らを静かに再生させていく……。 監督は、瀬々敬久に師事していた藤川佳三。6ヶ月あまり泊まり込み、避難者に寄り添いながら完成させた、感動の124分。 初日10/6(土) 舞台挨拶決定しました。 12:10の回上映終了後 藤川佳三監督、アニースさん(NGOヒューマニティ・ファースト)、矢野浩さん 18:30の回上映終了後 藤川佳三監督、矢野浩さん さらに、公開二日目の10/7(日)も、舞台挨拶決定です。 12:10の回上映終了後 藤川佳三監督 『石巻市立湊小学校避難所』の公開に寄せて、藤川監督と親交のあるシマウマ書房店主、鈴木創さんが、素敵なエッセイを送ってくださいました。 2006年に藤川佳三監督の前作「サオヤの月」の企画上映をシマウマ書房で行った。離婚した元妻との関係性をめぐる極私的な映像を通じて、夫婦、家族という自明のようでいて、きわめて厄介な「問題」を突き詰めたセルフドキュメンタリーで、僕は今でも名作だと思っている。しかしその後、諸事情によりこの作品は上映不能となってしまう。以来、監督自身も長い苦悩の期間を過ごすこととなり、映画を辞めようとさえ考えていたという。 そんな藤川監督が7年ぶりに新作を撮り、名古屋でも公開が決まったと聞いて、とても嬉しかった。その待望の新作が「石巻市立湊小学校避難所」である。 この映画は、東日本大震災、とくに津波で甚大な被害を受けた石巻市で、約300人の避難住民を抱えることになった小学校を舞台にしている。監督は、震災一ヶ月後の4月から避難所が閉鎖される10月までの6ヶ月間、現地に泊まり込み、そこに暮らす人々の生活に寄り添って撮影を続けた。 同じ地域の住人とはいえ、震災前には必ずしも付き合いのあった人たちばかりではない。だが、それぞれの家庭、個人の独立したライフスタイルの枠組みは震災とともに失われ、選択肢のないなか小学校の教室に雑居して、6時起床、6時半からラジオ体操…、という定められたタイムスケジュールを共に暮らしている。 しかし意外なことに、その雰囲気はとても和やかで笑い声が絶えない。初めは隣り合う人たちと上手くつきあっていくための気配りであったものが、実際に一緒に暮らすなかで、家族のような連帯感を共有するようになった様子が見てとれる。 そうした教室内の様子を、俯瞰ではなく、一人一人の表情に正面から向き合って撮影しているところがこの作品の大きな特徴だ。多くの被災者が生活するなか、誰にどう声をかけて、カメラを受け入れてもらうのか。そのアプローチの仕方によっては作品は全く違うものになっていたはずで、一口に「震災地のドキュメンタリー」といっても、ここに映し出されているのはやはり藤川監督だからこそ撮ることのできた、貴重な記録だと思う。 たとえば、作品に登場する男性、中年から高齢者のオジサンたちをみると、テレビの取材で重宝されるような理路整然とした語り口の人は少ない。皆さん朴訥な、人間臭い顔つきで(その雰囲気はどこか監督自身にも似ているのだが)、飾らない言葉の端々や、話をするときに浮かぶ目の表情には優しさと強い意志がにじみでている。 きちんと信頼関係を築いた上で、本音を引き出しているということでいえば、さらに印象的なのは、女性たちの言葉だ。いつもの軽口、お喋りから、ふとしたはずみに一対一の腰を据えた対話になる。明るい笑顔の奥底にしまってあったもう一つの感情が、混沌とした言葉のかたまりとなって、とめどなく吹き出してくる。70歳の愛子さんから10歳のゆきなちゃんまで、目の前の女性の語りにじっくりと耳を傾け、彼女たちの内面に秘められた世界観を引き出してしまう、このカメラを介した聞き手としての技は、実はこの監督の空恐ろしいほどの資質ではないだろうか。(「サオヤの月」を観た人であれば、きっと元妻・幸子の語りのシーンを思い返したはずだ) このように「人」を中心に撮られた映画ではあるが、もちろんその背後には、日常の想像を超えた、震災後の光景が沢山映り込んでいる。それこそ百聞は一見にしかず、映像で見て初めて理解させられることが少なくない。きわめてシビアな現実が目の前にあり、ただただ悲しいこと、腹立たしいこと、救いになっていること、思わず笑ってしまうようなこと、それらが複雑に絡み合っている。そのややこしいことを、粘り強く、ややこしいまま提示している。その愚直なまでの姿勢に心を打たれた。 後半に「サオヤの月」のラストシーンとも重なる、盆踊りのシーンがある。ああ、これでエンディングだなと思った次の瞬間、それまで時系列で進んできた映画の流れを一掃するかのように、3.11の石巻の津波の映像が流れる。ビルの屋上から撮られたホームビデオの映像は本当に凄まじい。津波の実態というものをぜひ見て欲しい。 そしてまた映像は半年後に飛び、避難所の閉鎖とその後の人々の様子が点描される。起承転結のストーリーとして完結することを自ら拒んでいて、そこにも記録映画としてのメッセージを感じた。作品には収まりきれない現実というものに、六ヶ月かけて向き合ってきた藤川監督の現時点での素直な境地ではないだろうか。 |
2012 10/6(土) 〜10/12(金)
当日券のみ 一 般 1500円 大学生 1400円 シニア 1000円 中高予 1200円 会 員 1200円 |
監督・撮影 藤川佳三
プロデューサー 坂口一直、瀬々敬久
編集 今井俊裕
整音 黄永昌
音楽 CICALA-MVTA、Pnoom
撮影協力 森元修一
2012年 124分