壊された5つのカメラ パレスチナ・ビリンの叫び
●壊された5つのカメラ Five Broken Cameras ヨルダン川西岸地区にあるビリン村。そこに暮らすイマード・ブルナートは、息子の誕生をきっかけにカメラを購入する。しかし、彼のカメラは、同時に、この村の闘いの日々を撮影することになった……。本作は、のべ5台のカメラが捉えた、抵抗のドキュメンタリー。
 2005年、イマードが最初のカメラを買った年。ビリン村では、イスラエルによる分離壁が建設され始め、村の耕作地の半分以上が奪われることが判明した。イマードらは、非暴力の抵抗運動を開始する。知恵を絞った数々の抗議行動に対し、イスラエルによる力ずくの弾圧が始まる。銃弾を受け、あるいは兵士の暴力によって次々と破壊されるイマードのカメラ。だが、イマードは撮影をやめない……。共同監督は、イスラエル人のガイ・ダビディ。家族への、友への、世界への愛に満ちた、感動の90分。



『壊された5つのカメラ』監督インタビュー

【イマード・ブルナート監督】
──パレスチナ人のあなたが、なぜイスラエル兵やユダヤ人入植者たちの中など危険な場所で撮影できたのですか?
 私は単にニュースや映画にするためだけに撮影していたわけではないのです。これは自分の責任なのです。私の撮影は、村の住民としての私自身の生活の一部であり、撮影はその運動に参加することです。たとえ自分が命を危険にさらしても、たとえ負傷しても、逮捕されても、それは私が村人の一部であることから発した行為であり、私の抵抗だったのです。
──3台のカメラが銃撃されました。恐怖心はありませんでしたか?
 私たちは人間であり、恐怖心を抱きます。だれでも怖い。しかしすぐにそれを忘れてしまいます。自分もその闘いの一部であり、その使命を果たさなければならないと思うのです。もちろん私の撮影のために自分の家族、妻や子供たちが苦悩していることは知っています。しかしその撮影は私自身や家族よりもっと大切なことなのです。
──あなたにとって“撮影する”とは、どういうことでしょう?
 この映画を作ることはとても重要でした。世界で何百万人という人たちがこの映画を観、これからも何百万人という人たちが観ていくでしょう。この映画は全世界に向けたメッセージであり、単なる「映画」ではありません。私たちの生活であり、現実なのです。観客は、この状況の中の現実の生活を観ます。しかもそれを家庭の中から、しかも幼児の眼を通して観るのです。だからいっそう観る者の心を動かします。
──この映画で誰に向かって、どのようなメッセージを送りたかったのですか?
 撮影には複数の目的がありました。まず自分の周囲の人々を守ることです。村人たちが私とカメラを守ってくれましたから。  なぜビリン村がシンボルになったのか。なぜビリン村が世界に知られるようになったのか。それは自分たちが非暴力の直接行動をとったからです。それにメディアを引き入れ、イスラエル人や海外の活動家をその行動に引き寄せることができました。カメラは、その映像をインターネットやニュースや短い映画として発信することで、外から多くの支援を得るために重要な“武器”となりました。そのようにして村の運動は成功したのです。

【ガイ・ダビディ監督】
──制作にイスラエル人が加わることで、この映画にどういう影響を及ぼしたと思いますか?
 私にとって、「イスラエル人」であることは、私のアイデンティティのほんの一部でしかありません。「自分が何ものであるか」、つまり自分の性格、知識、人生体験、自分の価値観などがもっと重要で、それがこの映画制作に貢献しています。私が参加してよかったのは、「イスラエル人」だからではなく、自分の価値観からです。
──あなたは“占領”がイスラエル社会に影響を及ぼしていると言いましたが、具体的にどういうことですか?
 10年前は、テルアビブの街を女性が歩くことが危険だとは考えもしなかったのに、最近は街中でのレイプが増えています。しかも日中です。人びとは何の理由のなく、その暴力をさらけ出すのです。これは“占領”の影響です。占領は、パレスチナ人社会に暴力を用いるだけではなく、自分の社会に持ち込まれてしまいます。そうやって暴力的な社会になるのです。だから占領に反対することは、私からすれば、「反イスラエル」ではなく、「親イスラエル」なのです。イスラエルやこの地域でいい社会を築くためなのです。

※本稿は、2012年9月4日、土井敏邦氏によって行なわれたインタビュー。土井氏は、ジャーナリスト・映画監督。『沈黙を破る』などの作品で知られ、現在は飯舘村の取材を続けている。その映像は、第一章「故郷を追われた村人たち」第二章「放射能と帰村」としてまとめられ、劇場公開の予定。詳細は下記をご覧下さい。
http://doi-toshikuni.net/j/iitate/
掲載協力:浦安ドキュメンタリーオフィス




2012
11/10(土)
〜11/16(金)

10:30

 

当日券のみ
一 般 1500円
大学生 1400円
シニア 1000円
中高予 1200円
会 員 1200円

オフィシャルサイト

監督 イマード・ブルナート、ガイ・ダビディ
撮影 イマード・ブルナート
編集 ベロニカ・ラゴアルデ=セゴー、ガイ・ダビディ
撮影補助 イスラーイル・プテルマン、ガイ・ダビディ、ジョナサン・マセイ、アレクサンドル・ゴエテシュマン、シャイ・カルメニ・ポラック
音楽:トリオ・ジョーブラン
プロデューサー:クリスティン・カムデサス、セージ・ゴーディ、イマード・ブルナート、ガイ・ダビディ

2011年 90分