映画監督ジョニー・トー 香港ノワールに生きて
●映画監督ジョニー・トー 香港ノワールに生きて Johnny Got His Gun! 映画監督ジョニー・トー(1955〜)。その傑作群は、ささやかれる香港映画の斜陽に抗うかのように独走し続ける。フランスの映像作家イブ・モンマユーが8年の取材を通して、香港映画の光と影を体現する名匠に迫ったドキュメンタリー。21世紀をさき駆ける傑作『ブレイキング・ニュース』『PTU』から、ギリシアの金融危機ネタに斬り込んだ最新公開作『奪命金』まで数々の名シーンの裏側を解き明かす。武侠映画の開祖である監督キン・フーに始まる香港映画界の伝統とも真摯に向かいあい、祖国・香港を見守り続ける鋭いながら厚味ある視線は、男子も惚れる男っぷり! 出演:リッチー・レン、サイモン・ヤム、レオン・カーフェイほか。60分。併映『香港映画界三大巨匠スペシャル対談』(共演:ツイ・ハーク、リンゴ・ラム 14分)。



『映画監督ジョニー・トー 香港ノワールに生きて』
大島真寿美(小説家)

 1997年7月、長らく英領であった香港は中国へと返還されたのだったが、その少し前から香港映画界はざわついていた。
 共産主義国家・中国に組み込まれ、はたして自由な映画作りは出来るのであろうか。フットワークの軽い移民の町香港だけに、その直前、海外脱出組も多かった(ジョン・ウーしかり、チョウ・ユンファしかり)。
 そして香港映画は返還後、大方の予想通り、じりじり変化していったのである。私の好きだったあの香港映画がじりじりと違うものになっていく(涙、涙……)。人材流出もさることながら、何よりも大きかったのは香港映画が巨大なマーケットである大陸に向けて作られだしたことで、これがもっとも痛かった、と私は認識していたのであったが……。そして、そんな凋落(と、私は感じております)の香港映画界で一人、気を吐きつづけたのがジョニー・トーであったと認識していたのであったが……。
 ところがこのドキュメンタリー映画でジョニー・トーは、凋落は九十年代になって始まり、だからこそ、自分は96年に銀河映像(彼の映画製作会社)を設立したのだと、はっきり述べているのであった。  えっ、そうなの? 返還とは無関係だったの?(ていうか、あの頃まだ凋落は始まってないと思っていたけど、もう始まってたの? 私の目が節穴だったの……?)
 と、軽い驚きを感じつつ、けれども彼が、たった一人、独自の道を歩み続けているのは自明の理なので、彼にとって、返還は、一通過点に過ぎなかったのかもしれないとも思うのである。いや、おそらくそうだったのだろう。彼は、どう変化しようと香港は香港だと、心の底から思っていて、この町を、映画の舞台として、それから装置として使い尽くすつもりでいるらしいことが(そして大陸向けに作る気などさらさらないことが)(たとえば『エレクション』なんて、黒社会をリアルに描きすぎて、大陸では一時、確か上映禁止になっていた筈)、言葉の端々から伝わってくるのだった。ブラボー、ジョニー・トー。そういえば、香港へのあられもないラヴレターのような映画『スリ』を撮っているのも、ジョニー・トーである。町へのラブレターがノワール映画というのも彼ならでは、だが。
 ところで私がジョニー・トーに完全に参ったのは99年の『暗戦』と『ミッション/非情の掟』だったが、その後、彼はめざましい進化の一途を辿っている。
 とにかく、(私にとって)彼の映画は、ハズれがなくて、もっと言ってしまえば傑作ばかりで、私のココロを香港映画に今もかろうじて繋ぎ止めているのがジョニー・トーなのである。
 というわけなので、本当は、このドキュメンタリー映画を観るより、彼の監督作品映画を観てくれよ! 観なきゃもったいないよ! って気持ちの方が大きいのであるが、まあ、でも、この映画で、まずは彼の面構えを堪能してください。ぶっとい葉巻の煙を吐き出しながら「正真正銘のオリジナル映画を作るしかない」と眼光鋭く語るジョニー・トーは、ノワール映画の登場人物みたい。銀河映像のビル内にもカメラは入り、自前のセットを惜しげもなく見せてくれているところもなかなかおいしい。(案内役はサイモン・ヤム)
 インタビューされているのは、前述したサイモン・ヤムの他アンソニー・ウォンやリッチー・レン等、常連の主演級が多いですが、欲をいえば、裏方からいつしか常連脇役に登りつめた(?)ラム・シュとかね、そっちも押さえてほしかったし、常連脚本家(でもあまり表に出てこない)ヤウ・ナイホイのインタビューは是非とも観たかった。それに、そもそも銀河映像までカメラを入れるのなら、共同設立者であり、共同監督をしょっちゅう務めているワイ・カーファイをはずしちゃだめだろう、とも思うのであるが、この映画を撮ったフランス人映像作家イブ・モンマユーさんはその辺り、どういう意図があったんだろうか。この〈ノワール調〉ドキュメンタリー作品は、彼らの共同監督作品については明らかにすべて無視しているけれど、それはなぜなのか。香港映画の曖昧さを知っていれば、クレジットは共同でもほぼ単独、またはクレジットは単独でも、いくらか共同、というケースがあるはずで、むしろ、ファンとしては、そちらに多大な興味があるのだが……。
 まあ、だから、ようするに、このドキュメンタリーは、イブ・モンマユーさんのジョニー・トーへのラヴレターなんだろうな、という気がしないでもないのであった。


2013
5/4(土)
〜5/10(金)

20:25

 

当日券
一 般 1300円
大学生 1300円
シニア 1000円
中高予 1200円
会 員 1200円

※ジョニー・トー監督作品のパンフレットをご呈示で、上記料金より100円割引いたします。
オフィシャルサイト

監督 イヴ・モンマユール 出演 ジョニー・トー、リッチー・レン、サイモン・ヤム、アンソニー・ウォン、レオン・カーフェイ、ルイス・クー 他

2010年 60+14分