朝食、昼食、そして夕食
●●朝食、昼食、そして夕食 18Comidas スペイン巡礼の終点地、世界遺産でも名高いガリシア州サンティアゴ・デ・コンポステラ。ある日の朝食が始まる……徹夜で呑んだ男達、子供のいる賑やかな一家、一夜を過ごした男女、カミングアウトに悩むゲイカップル、チョリソを盗む移民の青年、無言で座っている老夫婦…… 様々な人々がいて、多様な食卓の風景が生まれ、やがてそれぞれのストーリーがゆったりとひとつのドラマへと紡がれていく。食文化の豊かさはいうまでもなく、食べること、生きることを、どこか虚構と現実を超えた、精彩ある作品として描き出している。107分。



『朝食、昼食、そして夕食』
ガリシア地方に学ぶ美味しい食事と会話
谷本雅世
(“PaPiTaMuSiCa”ラテンアメリカ文化音楽紹介)

 スペイン・ガリシア地方の世界遺産でありカソリックの聖地として知られる古都、サンティアゴ・デ・コンポステラ。歴史を感じさせる石畳と建築物が印象的だ。そんな重厚な街のイメージとは好対象に物語では夜通し飲み明かしてすっかり意気投合した騒がしい酔っぱらい、トゥトとフランの朝食で始まる。旨そうにエビをつつき、さらに恋人との食事を用意中のいとこ、ヴラディミル宅に押しかけテーブルの料理をつまみ食い。はためにも実に気の毒だが男性にしておくのが勿体無いほど手際よい彼の美味しそうな料理はつまみ食いしたくなるのも当然だ。原題は「18食(18 comidas)」といい6組の朝食、昼食、夕食それぞれのシーンを通じてこの街に生きる人、それぞれの抱える事情を見せていく人間ドラマで、ガリシア出身の監督ホルヘ・コイラがあくまで即興にこだわり、4台のカメラを回し続け90時間にも及ぶ膨大な量の撮影フィルムから編集したという。それはまるでテレビドラマのような発想だが、テレビ畑出身の監督だと聞いて妙に納得した。とはいえ即興編集するというユニークな手法に出たのは驚くべきこと。演者もどこからが現実で虚空なのか混乱したのではないか? そこが監督の狙いだったのかもしれない。製作スタッフには数々の映画賞受賞経験者で本作では路上ミュージシャンとしても出演するガリシア出身の役者ルイス・トサルと経済危機の頃スペインに渡り若き才能を開花させたアルゼンチン出身のフェルナンダ・デル・ニドがいる。トサルとコイラ監督は幼き頃からよく知る旧知の仲でもある。
 さて話をストーリーに戻すと、「食事」とはどんな人でも生きるために必ず取らねばならぬ行為であり、それをテーマに人々と食事の風景のみを描いたことにこの作品の主眼があるように感じた。マケドニアからこの地に住みついた若い男は肉屋でチョリソを盗み、流しのギター弾きエドゥに一緒に歌わないかと声をかける。大繁盛の自宅兼レストランで目が回りそうに働く歌手志望のロサーナのお店はとても素敵で、一度は足を運んでみたいと思わせる雰囲気だ。生ハムや新鮮な野菜を使ったサラダと各種ワイン。茹でたり、炒めたりのシンプルな調理法が特徴のガリシアの料理ではシーフードも豊富だが赤ワイン・白ワインも食卓を彩っており、どのシーンも実に食欲をそそられる。その一方でもう何十年も、いや半世紀以上も恐らく毎食同じように過ごしているのではないかと思えるような老夫婦のつましくも微笑ましい食事シーンにも不思議と心惹かれた。一言も発せず、壁に寄せられたキッチンの小テーブルで食事する姿に年輪を感じつつ普遍的なメニューに彼らの人生を振り返りたくなったり……。場面は変わり息子には優しくしつつも朝から夫に対し不機嫌そうにビールをあおる女。この地方でも特別な時にしか食べない食材である高級な蟹ネコラを使った豪華な昼食を用意し、昔の恋人に連絡を取ってしまうシーンでは、料理上手な彼女のシンプルだが実に美味しそうなメニューに身を乗り出して試食したい葛藤にかられる。料理の手際よさと正反対な湿っぽい会話を元恋人に投げかける女、食事は会話で美味しくもまずくもなるものだというのが実感出来るシーンで、途端に食欲が減退していった。いつまでも結婚しない弟の人生の行く末を案じながら出会ったばかりの女を連れ招かれた弟宅へ食事に行く兄。考え方を容易に変えることが出来ない兄からは巡礼の街の古きカソリックの封建的考え方の一端を見た気がした。テイクアウトの中華料理をスタジオで幸せそうに食べる父と息子。初老の恋人と夕食で会話する若き女性、様々な登場人物が同じ時を様々に過ごしつつ、若い男性のバースデイ・パーティではこの地方特有のガイタ(バグパイプ)の調べが実にドラマチックにクライマックスへと運んでいく。どのエピソードもどこかチグハグでうまくいかないもどかしさを含みつつ、しかしどんなシチュエーションでも食事と会話と人々の表情の豊かさが最終的には何かステキな次への重要なステップの予感を想起させる。その土地を知り尽くしたキャストによる観光客目線とは違った、派手さはないが郷土愛に満ちたさりげない人間愛。丁寧な食事から与えられるエネルギーは万国共通では? そんな気がした。一億総疲労国家となりつつある日本、元気のない時ほど丁寧にしっかりと美味しい食事を作ろう、特別なものでなくて良い。そして一緒にその料理を食べたいと思える家族や気のおけない友人、初対面の相手とでも「美味しいね」と共に会話を楽しもう! そんな風に思わせてくれるお腹も心もあたたまる映画であった。


2013
8/3(土)
〜8/9(金)

18:30

8/10(土)
〜8/16(金)

12:10

 

前売券
※前売券販売は8/2(金)までです。
一 般 1400円
大学生 1400円
会 員 1200円
当日券
一 般 1700円
大学生 1500円
シニア 1000円
中高予 1200円
会 員 1300円

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オフィシャルサイト

監督・脚本 ホルヘ・コイラ
脚本 アラセリ・ゴンダ、ディエゴ・アメイシェイラス
音楽 イヴァン・ラクシェ、ピティ・サンス
製作 ルイス・トサル、フェルナンダ・デル・ニド
出演 ルイス・トサル、フェデリコ・ペレス・レイ、ビクトル・ファブレガス、エスペランサ・ペドレーニョ、ペドロ・アロンソ、セルヒオ・ペリス=メンチェタ、ビクトル・クラビッホ、クリスティーナ・ブロンド 他

2010年 107分